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終わりを告げるフィシクロニア  作者: 遅刻パン


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第六話 破壊

 信じられないほど体が軽い。

 

 水面が地面になったかのように、自由に駆けられる。


 不思議なはずなのに、迷いはなかった。


 息をする。


 心臓が鼓動する。


 それと同じように、水の上を走る。


 どうすればいいのかなんて考える必要はない。


 体が、それを当たり前のこととして知っているようだ。


 黒いのは今もなお、モヤと海水を吸収し続けていて、一回り大きくなっているように見える。


 変わらず、激しく波打つ海。


 このまま放っておけば、どうなるかわからない。


 止めないと。


 ヒュンッ!


 勢いよく、形成した武器をムチのように黒いのへ叩きつける。


 しかし――。


 バシャッ!


 表面を覆う水の層が、それを阻んだ。


 まったく効いていない。


 黒いのの中心で、青い宝石が光った次の瞬間。


 ゴォォォッ!!


 巨大な波が四方へ押し寄せた。


「っ!」


 海面を蹴り、波を飛び越える。


 そして、押し寄せた波は堤防を越え、近くの木々をなぎ倒していった。


 ……。


 叩いても、水に防がれる。


 なら。


 突く。


 意識を集中する。


 しなやかだった武器は、私の意思に応えるように細く伸び、先端を鋭く尖らせていく。


 一本の槍のように。


 狙うのは――。


 あそこだ!


 一気に間合いを詰め、全身の力を込めて突き出した。


「はあっ!」


 鋭く伸びた武器が、水の層を切り裂きながら奥へ。


 ガキィンッ!


 硬い感触。


 武器の先端が、青い宝石へ突き刺さった。


「……!」


 宝石に、小さなひびが入る。


 その瞬間、黒いモヤが一気に噴き出した。


 ゴォォォッ!!


 咆哮にも似た激しい音。


 海面が大きくうねりだす。


 ひびの奥から、光がせり出してくるのがわかった。


 今までの様子を見る限り、この宝石が光ると大きな攻撃が来る。


 させない!


 ガキィッ!


 武器をさらに突き込む。


 ピシッ。


 宝石の一部が、小さく欠けた。


 欠けた破片は黒いモヤとなり、空気へ溶けるように消えていく。


 このまま――。


 最大まで力を込める。


 もっと硬く、鋭く。


 「はあああっ!!」


 ガキィィンッ!!


 バリンッ!!


 宝石が砕け、同時に黒い外殻が音もなく崩れ始めた。


 バラバラになったそれらは黒いモヤとなり、空気へ溶けるように消えていった。


 倒したのか……?


 あたりを見回す。


 海の中へ潜り、周囲を見渡す。


 ……もう、どこにもいないようだ。


 荒れた海。


 なぎ倒された木々。


 崩れた小屋。


 打ち上げられたたくさんの海藻。


 あのまま放っておけば、一体どうなっていたのだろう。


 あらためて周囲を見渡すと、被害は想像以上だった。


 ただ、今はこれ以上被害が増えることはないだろう。


 胸の宝石が淡く光り、そのことを教えてくれている気がした。


 「助けてくれて、ありがとう。」


 そうつぶやく。


 しかし……この姿はなんなのだろう。


 肩が露出した黒いワンピース。


 スカートには、立体的な六角形の模様が蜂の巣のように広がり、その模様に沿って青いラインが入っている。


 日に焼けて明るくなった髪も、黒く染まっているのがわかる。


 胸には、大きな青い宝石。


 ……たぶん、この宝石は。


 あの拾ったチャームが変化したもの。


 宝石に手を当て、意識を集中する。


 ……もう、大丈夫だ。


 すると、胸元の宝石が淡く光り、衣装は制服へと戻っていく。


「戻った……。」


 私はその場に座り込む。


 ……ちょっと、疲れたな。


 そういえば最近、この辺でも原因のわからない異変が相次いでいると聞いた。


 今日の出来事も、無関係とは思えない。


 胸元のチャームを外し、視線を落とす。


 ……このチャームは、何かを伝えようとしているのかもしれない。


 私はチャームを胸元に付け直し、家路についた。


 ――


 ◇


 あの日から。


 私は、この町で起こる異変を探して見回るようになった。


 黒いのと遭遇したのは三回。


 倒したあとには、いつも戦いの跡がそのまま残っていた。


 倒れた木々も。


 地面に刻まれた傷も。


 昨日、あの子が倒した……いや、消したあとにわずかに残っていた傷跡を見ながら、そんなことを考えていた。


 その傷跡も、少しずつ塞がり始めている。


 まるで、森そのものが回復しているみたいだった。


 ……あの子も、チャームを持っていたのだろうか。


 あのときは、そこまで見る余裕なんてなかった。


 やっぱり、話しておけばよかったかもしれない。


 でも、同じ制服だったな。


 また学校で会うこともあるだろう。


 ……。


 なんて話しかけたらいいのだろう。


 ……。


 まあ、なるようになるだろう。


 そう考えながら、私は学校へ向かった。

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