第四話 共鳴
お父さんが昨日作ってた新作パン……食べたかったな。
最期に考えることがこれかーって、少しクスッとした。
……。
あれ?
目を開けてみる。
変わらず、怪物は暴れていた。
あ、頭もある。
「離れて」
「……え?」
突然の声に振り返る。
……魔法少女?
変わったデザインのワンピースを着た人が、そこにはいた。
私よりもちょっとお姉さんかも?
そのお姉さんは一瞬で「何か」の近くまで跳び、ムチのようなもので、次々と飛んでくる石を砕き落としていた。
あっ!
あのお姉さんが助けてくれたのか。
無表情だったお姉さんは少しムッとしてる。
苦戦してるのかも。
「何か」の全身は、もう岩で覆われていて硬そうだもんな。
「岩の怪物」って感じ。
でも、なんだろう。
あの怪物……苦しんでる?
私たちを狙って攻撃してるようには見えない。
痛くて、悲しくて、泣いている。
助けを求めてるように感じる。
気がつけば、立ち上がって怪物を見つめていた。
……なんとかしてあげられないかな。
胸のあたりが強く光りだした……えっ!? 私のチャーム?
『……助けて。』
苦しそうな声が、どこからか聞こえた気がした。
「助けるよ!」
なんの根拠もないけど、やってやる!
チャームをぎゅっと握ると、私は光に包まれた。
◇
光が収まり、ゆっくりと目を開ける。
「なに? ……今の光。」
というか
「魔法少女!?」
色は違うけど、これはお姉さんと同じワンピースだ。
胸元にあったチャームは消え、代わりに黄色い宝石が服に埋め込まれてる。
お姉さんへ目を向けると、私を見ていたみたいだった。
「あ、あの……!」
声が届くより先に、お姉さんは怪物へ向き直る。
再びムチを振るい、怪物を覆う岩を次々と砕いていく。
ガラガラと少しずつ岩が崩れ落ち、その隙間から黒いモヤが見え始めた。
怪物の動きも、さっきより鈍くなってきて……る?
「でも……」
これじゃ助けられない。
なぜか、それだけはわかる。
胸元の宝石に触れると、奥底にとてつもない力が蓄えられているのを感じる。
私にできることは……。
怪物の中央で輝く宝石に目を向ける。
もしかして、あれに触れたら何かわかるかも?
そう思ったら、もう走り出していた。
「お姉さん! 少しだけ、その子の動きを止められますか!?」
返事はなかったけど、お姉さんはムチを怪物に巻きつけ、力いっぱい動きを押さえ込んだ。
「はあああっ!!」
身体が軽い。
地面を蹴ると、一気に怪物の目の前まで跳び上がった。
私はその大きな宝石へ向かって手を伸ばす。
触れた瞬間、私と怪物の宝石が同時に輝き始めた。
触れた手から、全身へ伝わってくる。
力がバラバラに散らばって、迷子になってるみたい……。
なんだろう。
うまく言えないけど――
私のこの力に合わせたら、なんとかなる……気がする!
手に意識を集中して……。
あちこちに散らばったものを集めて、一つにまとめて流すイメージ。
互いの宝石が、さらに強く輝き始める。
やってみると、すんなりと力同士が馴染むのを感じる。
怪物を形作っていた黒いモヤが少しずつ晴れ、風に流されていく。
怪物はそれを受け入れるように、徐々におとなしくなっていった。
「もう、大丈夫」
そんな気がした。
やがて怪物は、私が触れていた宝石だけになり、その宝石も少しずつ崩れ、光の粒となって消えていった。
◇
茜色に染まった森の中。
さっきまでぐちゃぐちゃだった地面の亀裂や倒木は、まるで何事もなかったかのように、その多くが元の姿を取り戻していた。
木々の間を吹き抜ける風は心地良く、私の髪をサラサラと撫でていく。
さっきまでのこと……夢みたいだけど、あらためて自分の姿を見ると、やっぱり現実なんだと思う。
なんなんだろう、これ……。
それに、肩が大きく露出した服装には少し恥ずかしさを覚える。
でも、それより。
「あ、あの……!」
お姉さんのほうを振り向く。
「……あれ?」
そこにはもう、姿はなかった。
いろいろ聞きたかったのに……。
そして今、一番知りたいこと――
「……どうやったら元に戻るんだろう」
しばらくお姉さんを探しているうちに、いつの間にか元の姿に戻っていた。
結局、お姉さんは見つからない。
なんだかモヤモヤした気持ちのまま、今日起きた不思議な出来事のことを考えながら、私は家に帰った。




