第二話 何気ない日常
爽やかな五月の風が吹き抜け、校庭に咲く花や草木の香りを運んでくる。
無事にプレゼントを渡し終えて、ほっとした途端……お腹空いた。
そういえば、今はお昼休みだっけ。
お弁当の包みをほどき、今日のおかずは何だろうと考えていると――
「あれー?」
この、のんびりとした声は――
稲葉ほなみ。
わざとらしくニヤニヤと、ツインテールをしたもう一人の親友が、私の顔を覗き込んできた。
「あれあれー?」
ほなみは、私とみのりの胸元のチャームを交互に見ながら、
「私の分はー?」
「いやー……材料足りなくなっちゃって」
みのりへのプレゼントを何度も作り直しているうちに、材料を使い果たしてしまったのだ。
「じゃあ私も、今のうちにおねだりしちゃお」
「白色がいいな〜。お米みたいで」
そう言うと、どちらが顔かと思うほど大きなおにぎりにかぶりついた。
「もちろん! そう来ると思って、白のレジン用意したんだよね!」
二人から「おー!」と称賛の拍手を受け、ちょっとだけ鼻が高くなった。
そうしてようやくお弁当を開く。
今日はレタス、トマト、チキンのサンドイッチ。しかもチキンは照り焼きだ。
「いただきます!」
◇
お弁当おいしかったー!
この後デザートに、フルーツの盛り合わせをいつもみのりが用意してくれて、みんなでつつく。
みのりはそれを取り出しながら、ふと口を開いた。
「そういえば最近、自然災害多いよね」
「そうそう! この前も堤防壊れたって聞いたよ!」
三週間前、突然の高波が近くの堤防に押し寄せたらしい。
規模はそこまで大きくなかったみたいだけど、老朽化のせいか、真ん中から綺麗にボキッと折れたとか。
「あそこ古いし、もう使われてないからね〜」
「今年は雪もすごかったし……なんかまだ春って感じしないね」
「うちのリンゴも、今年はちょっと遅いみたい」
確かに、言われてみたらおかしなことが続いているかも。
他にも一部の山で木々が突然枯れたり、霧がなかなか晴れない日が多かったり……ここ最近、そんな話をよく耳にする。
「天気がおかしいのかな?」
「うーん……」
ほなみが空を見上げる。
「なんか違う気がするんだよね〜」
「違う?」
「うまく言えないけど……なんか引っかかるな〜」
「引っかかる……?」
そのとき、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「あっ、もうこんな時間!」
急いでお弁当を片づけ、立ち上がる。
「早く戻ろ!」
ほなみの言葉が少しだけ気になったけど、チャイムの音がその疑問をかき消した。
◇
すべての授業が終わり、私たちは校門へ向かった。
「じゃあ、またね〜」
ほなみは大きく手を振り、
「かほ、明日は寝坊するなよ〜」
「なんで知ってるのー!」
ジャムの拭き残しでもあったのかな? 口元を確認している間に、そのツインテールは姿を消した。
「き、きっとよくあることだし、当てずっぽうじゃないかな……?」
フォローなのか、なってないのかわからない、みのりの言葉に少し胸を痛めつつ、二人で駅までの道を歩いた。
◇
「じゃあ、また明日!」
「かほちゃん……!」
「ん?」
いつもの分かれ道。
いつもより少し力強い声に振り返ると、みのりの頬がほんのり赤く見えた。
少し日が傾いてきたからかな?
みのりは胸元のチャームに触れ、少しうつむきながら、
「プレゼントありがとう。大切にするね」
「どういたしまして! 前の石すっごい褒めてくれたからさ! これしかないなって!」
最初にチャームを作ったとき、上手にできたのが嬉しくて、すぐに写真を撮ってみのりに送った。
すると、すごく褒めてくれて。
さっそく制服につけておいたんだけど……今日みたいに寝坊して全力疾走してる間に、どこかに落としたみたいなんだよね。
「えっ……私、そんなに言ってた……?」
「言ってたよ?」
「……なんか恥ずかしい」
「じゃ……じゃあ、また明日ね……!」
素早く身を翻し、早足で駅へ歩いていく。
「えっ? あ、うん! またねー!」
声は届いたかな?
言い終わる頃には、みのりの姿は見えなくなっていた。
今日はみんな、なんかせっかちな日だな。
そんなことを思いつつ、私は駅を後にした。




