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置き去りにされた王太子の婚約者は拾われて幸せになる  作者: 朝山 みどり


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43 小国群にて

43 小国群にて


 リーブル王国の南西部は、「小国群」と呼ばれる国々と国境を接している。


 それらの国を治める者たちは、複雑な血縁関係で結ばれていた。王の母親が隣国の王女であったり、王妃の妹が別の国へ嫁いでいたりする。何代かさかのぼれば、皆が同じ一族に行き着くといっても過言ではない。


 もっとも、血がつながっているからといって、仲がよいとは限らなかった。


「川の東岸は、もともと我が国の領地だ」


「何代前の話をしている。いま治めているのはこちらだ」


「あの鉱山の坑道は、国境を越えて我が国に続いている。利益の一部を渡してもらおう」


 顔を合わせれば領地や水利、鉱山の権利を巡って争う。


 小競り合いも珍しくない。


 だが、外から敵が現れれば話は別だった。


「我らの争いに口を出すな」


 そのひと言で結束し、昨日まで刃を交えていた相手とも肩を並べる。敵を追い払えば、また内輪で争い始める。


 それが、小国群という国々だった。


 彼らは長年、豊かなリーブル王国へ羨望の目を向けていた。


 広大で肥沃な土地。豊富な水。整備された街道。海へと続く大河。


 いつか機会が訪れたなら、そのすべてを自分たちのものにする。


 各国の王たちは表立って口には出さないものの、同じ野心を抱き、虎視眈々とその時を待っていた。


 そんな彼らのもとへ、思いがけない招待状が届いた。


「リーブル王国の王女が主催するお茶会?」


 最初に招かれたのは、小国群のある国の王女だった。


 国王は何度も招待状を読み返した。


「なぜ、我が娘が招かれたのだ」


「若い王女が令嬢との交流を目的としたお茶会だそうです。小国群とも友好を深めたいと書かれております」


「友好か……」


 国王は警戒したものの、断る理由もなかった。


 娘がリーブル王国の王宮へ出入りできるようになれば、得られる情報は多い。王女同士が親しくなれば、思わぬところから縁談や交易の話につながる可能性もあった。


「護衛を多めにつけろ。途中の道や町の様子も、よく見てくるように」


「承知いたしました」


 王女の馬車は、多数の護衛に守られて国境を越えた。


 もっとも、その全員が王女とともに王都まで向かったわけではない。護衛たちは途中で少しずつ隊列を離れ、街道や橋、川の深さなどを調べた。


「王女殿下の馬車の車輪が壊れた場合に備え、脇道も確認しておきました」


「道に迷わぬよう、近隣の村の位置も調べました」


 帰国した護衛たちは、もっともらしい理由を添えて報告した。


 王女も上機嫌で帰ってきた。


「お茶会はとても楽しかったですわ。リーブル王国のメアリー王女殿下は、またいらっしゃいと仰ってくださいました」


 そして、その王女を通じて、小国群の別の王女や令嬢にも招待状が届くようになった。


「どうして、あの国の娘だけが招かれるのだ」


「我が国の王女のほうが、家格も教養も上ではないか」


 初めは不満を口にしていた各国の王たちも、自分の娘や姪に招待状が届くと、競うように王都へ送り出した。


 当然、どの国も大勢の護衛をつけた。


 小国群の国々は互いに国境を接し、王都もさほど離れていない。出発の時期が重なれば、街道の途中で一行同士が出会うこともあった。


「これは、伯父上の国の騎士ではないか」


「そちらも王女殿下の護衛か」


「ええ。よろしければ、途中までご一緒しませんか」


 別々の国に仕えているとはいえ、もともとは親戚同士である。何度も顔を合わせるうちに、護衛たちも自然と親しくなっていった。


 王女や令嬢たちも同じだった。


「今度は、いつ王都へいらっしゃるの?」


「来月のお茶会にも招いていただきましたわ」


「まあ、わたくしもです。では、途中で合流いたしましょう」


 リーブル王国の王宮で開かれるお茶会をきっかけに、小国群の若い娘たちは親交を深めていった。


 その親たちも、娘の話を通じて、以前より穏やかに言葉を交わすようになった。


「娘同士が親しくしているのに、親が争っていては格好がつかん」


「今回は、こちらが譲ろう」


 長年揉めていた問題が、いくつか棚上げされた。


 もちろん、完全に和解したわけではない。


 だが少なくとも、以前ほど互いの隙を狙わなくなっていた。


 そんなある日、小国群へ驚くべき知らせが届いた。


 リーブル王国とクレールスター皇国の軍が、国境付近で衝突したという。


「まさか、あの大国と戦を始めたのか?」


「報告によれば、クレールスター皇国軍が勝利し、そのまま王都へ向けて進軍しているそうです」


 各国の王や重臣たちは、急ぎ使者を走らせ、情報を集めた。


 ところが、届く報告はひどく曖昧だった。


 皇国軍はすでに王都へ入ったらしい。


 王都からは、大勢の民が逃げ出している。


 リーブル王国軍は敗走した。


 しかし、王室は王宮に残っているともいう。


「結局、王都を支配しているのはどちらなのだ」


「皇国軍が占拠したという報告もあれば、王国軍が王宮を守っているとの報告もあります」


「はっきりせぬな」


「戦の最中です。情報が錯綜しているのでしょう」


 小国群の王たちは協議を重ねた。


 そして、ひとまず様子を見るためという名目で、連合軍を出すことに決めた。


「リーブル王国が弱っているのなら、これを叩く」


「王都を押さえれば、国土の分配について交渉できる」


「クレールスター皇国軍が残っていた場合は?」


「援軍に参りましたと言えばよい。皇国に味方したことにして、報奨を求めるのだ」


 誰が勝っていても、自分たちは利益を得られる。


 彼らはそう考えた。


「リーブル王国の地理なら、王女たちの護衛として何度も出入りした者たちが調べております」


 卓上に広げられた地図には、街道だけでなく、脇道や橋、村の位置まで細かく書き込まれていた。


「ここには浅瀬がございます。橋を使わずとも、兵を渡せるでしょう」


「この森を抜ければ、王都までの日数を縮められます」


「これだけわかっていれば、進軍に困ることはないな」


 会議の席には、余裕の笑みが広がった。


 どちらが勝っていても、小国群の連合軍は損をしない。


 王国と皇国が争って疲弊している今が、長年待ち望んだ好機だった。


 


いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

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