41 救援者でない者たち
41 救援者でない者たち
ギルバードたちが到着したとき、町ではすでに炊き出しが行われていた。
広場には大鍋が並び、食料や衣服、寝具まで用意されている。怪我人の手当ても行き届き、住民たちは焼け跡の片づけを始めていた。
「……誰かが、先に炊き出しを始めているようだな」
ギルバードは不満そうに眉をひそめた。
「ですが、王命を受けて来たのは我々です」
騎士団長も面白くなさそうに答えた。
「まず町長に、到着を知らせましょう」
町長は広場にいた。
「ダイナ公爵家のギルバードだ。王命により、炊き出しに参った」
「えっ? 炊き出しに?」
町長は目を見開き、それから慌てて頭を下げた。
「あの……ありがとうございます」
その声には、喜びよりも困惑がにじんでいる。
ギルバードはそれに気づかず、当然のように続けた。
「すぐにでも始めたいところだが、まずは休憩を取りたい。ここまで野営をしながら来たので、皆、疲れておる。公爵家と騎士団が使える宿舎はどこだ?」
「宿舎、ですか?」
「大人数だ。厩も必要になる。馬の世話をする者も用意してくれ」
町長は呆然とギルバードを見た。
「申し訳ございませんが、お泊めする場所はありません」
「なぜだ?」
「火事で焼けましたので」
あまりにも当然の答えだった。
だが、ギルバードは顔をしかめた。
「では、我々に疲れた体のまま炊き出しをしろと言うのか?」
「いえ、そうではなく……」
騒ぎを聞きつけた騎士団長が、騎士を引き連れて近づいてきた。
「どうされました、公爵」
「聞いてくれ。この者は、長旅をしてきた我々に休む場所も与えず、すぐに働けと言うのだ」
「なんだと?」
騎士団長は町長の前へ進み出た。
「我々に休憩を取るなと言うのか?」
鎧姿の騎士たちに囲まれ、町長は思わず一歩後ずさった。
「そのようなことは申しておりません。炊き出しは、もう必要ありません。それから宿舎は、先ほど申し上げたとおり、火事で焼けてしまったため提供できないのです」
「炊き出しが必要ないだと?」
騎士団長の声が大きくなった。
「はるばる王都から来た我々の好意を断るつもりか!」
「好意って、受け取る相手を怒鳴りつけるものなの?」
若い男の声が割って入った。
町長をかばうように前へ出たのは、一人の若者だ。
もしアレクがこの場にいれば、彼が長老の孫だとすぐにわかっただろう。
ただ、公爵も騎士団長も彼の名前を知らなかった。
「なんだ、貴様は」
「炊き出しに来たんだよね?」
若者は騎士団長を無視して、馬車の列を眺めた。
「だったら、さっさと始めたら? 腹を空かせた人を待たせて、自分たちが休む話をしている場合じゃないだろ」
「我々は王都から来たのだぞ!」
「そりゃご苦労だったね」
若者の声から笑みが消えた。
「火事だよ。家が焼けたその日から、食べる物にも寝る場所にも困るんだ。助けるなら、すぐに来なきゃ意味がない」
若者は一行の馬車を指さした。
「炊き出しに来るなら、着いたらすぐ料理を始められるように、食材も持ってくる。眠る場所がないと分かっているなら、自分たちの天幕と寝具も持ってくる。被災した町の人に、宿と馬の世話を頼んでどうするんだよ」
ギルバードの顔が赤くなった。
「食材は現地で集める予定だったのだ!」
「家も畑も倉庫も焼けた人たちから?」
若者は呆れたように聞き返した。
「それで、火事から今日は何日目?」
誰も答えなかった。
「遅すぎるんだよ」
「貴様! 王国の公爵と騎士団を愚弄するのか!」
騎士団長が剣の柄へ手をかけた。
だが、剣を抜くより早く、若者の手がその手を押さえていた。
「危ないよ」
若者は静かに告げた。
「そんなものを抜いたら、引っ込みがつかなくなる。相手をよく見てからにしたほうがいい」
いつの間に現れたのか、広場のあちこちに海の一族の男たちが立っていた。
誰も武器を構えてはいない。
そして騎士団長は、押さえられた手を動かすことができなかった。
「話が分かったなら、もういいよ」
若者は騎士団長から手を離した。
それから近くにいた仲間と目線を交わし、ギルバードたちへ向き直った。
「皆さん、お疲れなのでしょう?」
先ほどまでとは打って変わった、よそ行きの口調だった。
「炊き出しのスープを召し上がってから、お引き取りください。鍋はあちらです。器もありますので、お好きにどうぞ」
まるで被災者に対するような扱いだった。
住民たちの視線が集まるなか、ギルバードも騎士団長も、何も言い返すことができなかった。
◆◇◆◇◆
北部の町で火事が起きたという知らせを王宮で受けたアレクは、海の一族へ、ただちに救援を依頼した。
海の一族は、家を失った者に必要となる食料、飲み水、医薬品、衣類、寝具などを可能な限り船へ積み込むと、川伝いに移動した。
そして、その日のうちに町へ到着した。
怪我人の手当てをし、大鍋で温かいスープを作った。着の身着のままで逃げた者には衣服を渡し、夜になれば、眠る場所を失った者を船へ迎え入れた。
「今夜は何も考えずに眠れ」
「片づけは、明日からでいい」
「腹いっぱい食べろ。鍋は逃げないからな」
温かい物を食べ、清潔な寝具に横たわった人々は、ようやく安心して目を閉じることができた。
一晩ぐっすりと眠ると、少しずつ顔つきが変わった。
「いつまでも世話になってはいられない」
「まずは道を片づけよう」
「焼け残った物を確かめるぞ」
失ったものは戻らない。
それでも、自分たちの町を立て直そうという気力が湧いてきた。
そこに、磨き上げた鎧を輝かせた騎士団と、大鍋ばかりを積んだ公爵家の一行がやって来た。
彼らは食料を持たず、自分たちの宿を求め、疲れたから休ませろと言った。
町の者たちにとって、公爵も騎士団も救援者ではなかった。
すでに前を向いて働き始めた彼らの手を止める、ただの邪魔者でしかなかった。




