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置き去りにされた王太子の婚約者は拾われて幸せになる  作者: 朝山 みどり


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40 遅すぎた炊き出し

40 遅すぎた炊き出し


 地方の町で大火が起きたとの知らせが、王宮へ届いた。


 火は夜半に出て、折からの強風にあおられ、町を焼き尽くしたという。死者こそ出なかったものの、多くの民が家財も着替えも持ち出せないまま、住む場所を失っていた。


 報告を受けた国王は、すぐに炊き出しを行うよう命じた。


「順番は、ダイナ公爵家であったな」


 こうしてギルバード・ダイナが、被災した町へ向かうことになった。


 ギルバードは混乱していた。


 炊き出しについて、何も知らないわけではない。


 先日、四公爵家でピクニックを開いたばかりだ。


あの時と同じようにすればよい。


 大鍋に焜炉、天幕に机。食器や調理道具を馬車へ積み込み、現地へ運ぶ。バーベキューに使った道具も持っていけば、肉を焼くことができる。


 この間、実際にやったのだ。


 できるはずだった。


 必要と思われる道具を用意して馬車へ積み込む。そこまでは滞りなく終わった。


 それなのに、胸の中の不安は消えなかった。


 第一、行きたくない。


 火事の後の町など、煙と灰で汚れているに決まっている。宿もまともに使えるか分からない。被災した民が混乱し、食事を求めて押し寄せてきたら、どうすればよいのか。


 だが、公爵家の当主として、行きたくないなどとは口が裂けても言えなかった。


「しかし……」


 散々迷った末、ギルバードは姉のポーレットを訪ねた。


「それなら、騎士団を連れていけばよろしいではありませんか」


 相談を聞いたポーレットは、あっさりと答えた。


「騎士団を?」


「ええ。騎士たちは野営に慣れていますし、民に秩序を守らせることにもなれているでしょう。騎士団長のことは知っているでしょう?」


「ああ、それはそうだ」


「頼りになる(ひと)よ。一人ですべてを背負う必要はありませんわ」


「なるほど。助かるよ、ポーレット」


 ギルバードは、ようやく笑顔を見せた。


 出発の日、ギルバードは王宮から借り受けた道具を積んだ馬車を率い、王都の外で騎士団と合流した。


 整然と並んだ騎士たちを見て、ギルバードは胸を撫で下ろした。


「騎士団長、よろしく頼む」


「お任せください、ダイナ公爵」


 騎士団長もまた、ギルバードの姿を見て安心していた。


 学生時代から体格がよく、何かと号令をかけたがった彼は、仲間内で「騎士団長様」と呼ばれていた。その呼び名どおりに騎士団へ入り、今では本当に団長となっている。


「先日のピクニックは、見事に成功したそうですな」


「まあ、いろいろとあったが、無事に終わった」


「それならば、今回も問題ありますまい」


 騎士団長は自信たっぷりにうなずいた。


 先日の王都での炊き出しでは、クレールスター皇国の騎士団に先を越され、住民の誘導も安全の確保も後手に回った。


 だが、今回は違う。


 リーブル王国の騎士団が、民を立派に統制してみせるのだ。


「被災した者たちは気が立っているかもしれません。勝手な行動を取らぬよう、我々が厳しく指示いたしましょう」


「うむ。頼りにしている」


 騎士たちは出発前に、馬の毛並みを念入りに整えた。


 泥に汚れた姿で民の前に出ては、王国騎士団の威厳に関わる。たてがみを梳き、蹄の汚れを落とし、磨き上げた装具を取りつける。


 準備が整うと、騎士団は美しく歩調を合わせて北へ向かった。


 ◆◇◆◇◆


 数日の行程を経て、一行はようやく被災した町へ到着した。


 焼け焦げた家々からは、まだかすかに煙の臭いが漂っている。道の脇には焼けた木材や瓦が積まれ、住民たちが声を掛け合いながら片づけを進めていた。


 ギルバードと騎士団長は、胸を張って町へ入った。


 公爵家の馬車と、鎧を輝かせた騎士団。その威容を目にすれば、住民たちは歓声を上げるに違いない。


 しかし、住民たちは作業の手を止め、訝しげにこちらを見るだけだった。


「なんだ、あれは」


「王都の騎士じゃないか?」


「今頃、何をしに来たんだ?」


 歓迎の声は上がらない。


 それどころか、町の広場の隅では、すでにいくつもの大鍋が火にかけられていた。湯気とともに、肉や野菜を煮込んだ食欲を誘う香りが漂っている。


 簡素な天幕の下には食料や衣服が整然と積まれ、怪我をした者の手当てをする者までいた。


 すでに炊き出しどころか、必要な救援のほとんどが行われていた。


「……これは、どういうことだ?」


 ギルバードは呆然と広場を見回した。


 王命を受け、はるばる王都からやって来た自分たちより先に、いったい誰がこれほどの救援を行ったというのだろう。


 その答えを、このときのギルバードはまだ知らなかった。







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