39 長老とアレク
39 長老とアレク
アレクは緊張の面持ちで部屋に入った。
「アレク殿、アリス様を助けていただいたお礼をしたいと思いまして」と長老が迎えて
「どうもありがとうございました。アリちゃんはほんとに可愛くて、家族です。娘であり妹であり孫です。感謝しております」と言うと深く頭を下げた。
やがて頭を上げた長老はアレクに椅子をすすめ自分も腰掛けた。そして後ろに立っている若者を孫だと紹介した。孫は頭を下げたが名乗らなかった。
「アリちゃんはビザン帝国の山に登りたいそうだ」と長老がいきなり言った。
「そうですか!思ったよりあそこが気に入ったのですね。もう、体力は人並みですが、女性が登るのは無理ですね。でも一度見に行こうかな」とアレクが答えると
「連れていけると言えば?」
「え?」
「川を上って行ける。我らは出来る」
「我らは水を操れる」
「気がつかなかったか? ビザンからの帰り」
「えぇ、穏やかだった」とアレクは思い当たった。
「アリちゃんがビザンに行ったのは気づかなかった。どういう事情か、教えてもらっても?」
「ある雨の夜、アリスを拾った」とアレクは話し始めた。
時々質問しながら長老はアレクの話を聞いた。
二人の話は長く続いた。隣国との外交問題も話題になった。
さらに話は深くなり、いつのまにかアレクはアリスへの思いを全て話していた。
ドアがノックされてスープとトーストが乗った盆が運ばれて来た。
「ありちゃんが作ったスープだ。食事にはすこし足りないからおやつとして食べてください。アレクさんもどうぞ」
長老と孫とアレクはスープを飲んだ。
「美味しいな」と孫が呟いた。
長老もアレクもうなずいた。
スプーンを置くと長老は話し始めた。
「アリちゃんを海へ連れ出したのはよかった。ありがとう。潮風に当たり、ゆっくりと過ごしたのなら、回復も早まったのだろう」
長老は、懐かしむように目を細めた。
「我らはいつも、アリちゃんに元気になってほしいと思っていた。だから、土産にもその思いを込めてきた。どれもおいしかったと、アリちゃんは必ず礼を言ってくれた。世話になっている者たちと分けているとも言っていた。彼らもおいしいと言っていたと、嬉しそうに話してくれた」
長老は笑顔で言うと、アレクへ顔を向けた。
「そして今度は、アリちゃんが我らに返してくれた。自分の手で作ったスープに、思いを込めてな」
その声に力がこもる。
「このスープを共に食べたことで、アリちゃんと海の一族の縁は、さらに深く結ばれた。そこにはアレク殿下、あなたもいる」
「わたしも?」
「ああ。あなたも、もう無関係ではない」
長老は立ち上がり、アレクをまっすぐに見た。
「だから、我らを使えばいい。遠慮せず、力を借りてくれ」
そして、迷いのない声で告げた。
「天の山へ行こう。今度は我らが、アリちゃんの力になる」
「その、河を遡ることが出来るのか?」とアレクが震える声で言うと
「出来るぞ……そうだ……出来る。使っていいぞ」と長老が目を細めて言うとアレクは
「軍を運べるのか?」とつぶやいた。
「運べるぞ」と長老がそのつぶやきを拾って答えた。
「そのときは……頼む」とアレクが言った。こめかみから汗が落ちた。
「あぁやるべき時にやれるようだな。アリちゃんを頼むに足る男だ。清濁合わせ飲めない男はだめだ」
「任せてくれ」とアレクは答えたが、自分の声が掠れているのに驚いた。
その夜もアレクとデイビスは酔い潰され、翌朝、得意顔のアリスに朝食の味噌汁をすすめられた。
なんとか、味噌汁と白いご飯を食べた二人は、海の一族と別れて王都に戻った。
アレクは特務部からの報告を聞くだけの、のんきな生活を送り、余った時間をアリスと遠乗りに行ったり町を歩いたり楽しく過ごした。
そして二国の騎士団は国境で演習をした。
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