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置き去りにされた王太子の婚約者は拾われて幸せになる  作者: 朝山 みどり


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18 ブランコ

 18 ブランコ


 次に呼ばれたのは、ブランコの近くにいた者たちだった。


 怪我をした子どもの関係者と騒ぎを目撃した貴族や使用人。


 アリスを呼びに来た王妃付きの侍女。


 そして、マロン伯爵も会議室へ呼ばれた。


 宰相は一人ずつ、当時の状況を確認した。


 王妃付きの侍女には、何故アリスを呼びにいったのか、特に詳しく説明させた。


「も、申し訳ございません……」


 侍女は青ざめた顔で震えながら深く頭を下げた。声もかすれ、今にも泣き出しそうだった。


「ブランコで遊んでおりましたお子様が落ちてしまい、お怪我をなさいました」


「その途端、お母様と思われる女性が大変お怒りになりまして……」


 侍女は当時の様子を思い出しているのか、途切れ途切れに話す。


「『こんなブランコが悪い! こんなあぶないものを!』と大声で怒鳴られ、周りは最初、シーンとなりそれから皆がひそひそと色々言い始めました。女性を非難する声もありまして、すると女性が大声で言い返したり」


 侍女は胸を押さえ呼吸を整えて続けた。


「その声に驚いた他のお子様方まで泣き出してしまいまして……」


 侍女はぎゅっと手を握りしめた。


「その女性はブランコの前から動こうとなさらず、後ろでお待ちになっていた方々からも『早くどいてください』『いつまで騒いでいるんですか』と不満の声が上がり……誰も収拾をつけられない状態になってしまいました」


「わたくしどもでは、どうすることもできませんでした」


 申し訳なさそうに視線を落とし、さらに続ける。


「その場を収めるには、アリス様にお越しいただくしかないと思い、呼びに参りました。『怪我人です。急いで来てください』と申しあげたら、『医者ではありません』とお返事なさいました」


「そりゃ、そうだな。怪我人の面倒は医者だな」とメイナード侯爵が皮肉な口調で言った。


 国王もうなずいて、王妃に睨まれた。


「するとそばにいた女性が『お姉様。怪我人ですよ』と王太子殿下も『冷酷だぞ』と……」


「そうか、口で助けるということか、頼もしいな」とメイナード侯爵が鼻で笑いながら言った。


「その……そのアリス様は『主催者のスペーダ公爵夫人は何をしているのかしら』とやや大きな声でおっしゃいましたが来てくださいました」


「おぉ、知っているぞ。そいつはどっしりと座っておった。有事の際はたのもしい壁となって守ってくれるだろう」とメイナード侯爵は、ことさらにスペーダ夫人を見ながら言った。


「話を整理すると」


 侯爵は王妃ではなく、侍女を見たまま言った。


「姉上の意思をくんでアリスを呼びにいったわけではなく、お前の独断だったということだな」


「当たり前でしょう」


 王妃がすぐに口を挟んだ。


「わたくしは、そのような指示はしておりません」


 メイナード侯爵は王妃を見なかったが、こう言った。


「そうだな、わたしたちは楽しく語らっておった。学生時代に戻って楽しく」そう言いながら、彼の視線は、床へひれ伏した侍女へ向けられたままだった。


「王妃殿下のご命令ではございません」


 侍女は震える声で答えた。


「お前が王妃と話していたのを見たが、お前の独断だと言うのだな」


 侍女は額が床につくほど深く頭を下げた。


「はい……」


 メイナード侯爵は侍女へ答えなかった。


 独り言のように、低い声で言った。


「王太子殿下とバーバラも、アリスに行くよう言ったのだな。当日の責任者はそこにいるスペーダ公爵だが……役立たずだしな。むしろ侍女の判断は賢明だということだな」


 侍女はじっと下を向いていた。


 侯爵は一度目を閉じ、それから宰相を見た。


「ブランコについても、処分を決めましょう」


 マロン伯爵が不安そうに侯爵を見た。


「怪我をした子どもの母親が、危険なものを置いた責任がアリスにあると言ったそうだな」


 侯爵は淡々と言った。


「アリスの責任にされては迷惑だ。だが、貴重な意見だ。怪我人が出るおそれがあるのであれば、廃止するべきでしょう。アリスの責任にされてはたまりません」


 侯爵は宰相へ視線を向けた。


「スペーダ公爵家へ、ブランコの撤去と廃棄を正式に命じてください。マロン伯爵の意見をいれたと明記して」


 そして、わざと一言付け加えた。


「アリスへ丸投げではなく、スペーダ公爵家へですぞ」


「お待ちください」


 マロン伯爵が慌てて立ち上がった。


「わたしは、ブランコを廃止しろなどとは申しておりません」


「ご子息が怪我をされ、その奥方がアリスへ責任を求めたと、そこの侍女が証言したではありませんか」


 メイナード侯爵が言うと、マロン伯爵は激しく首を横へ振った。


「違います。何もしておりません。それに、あれは息子の奥方ではありません」


「何もしていないというのは、伯爵ご自身のことでしょうか」


 侯爵が静かに尋ねた。


 マロン伯爵は言葉に詰まった。


 床へひれ伏していた侍女が、泣きながら口を開いた。


「マロン伯爵家のご子息がブランコで怪我をされ、奥様がひどくお怒りになりました。わたくしでは、どうすることもできず……それで、アリス様へ助けを求めたのでございます」


「違うのだ」


 マロン伯爵が声を上げた。


「あれは、息子の奥方ではない。あの子どもも関係ない」


「あの時はあの女性のことを息子の奥方だとおっしゃいました。まだ披露してないが、息子の奥方だとはっきりと」


 と侍女も言い募る。


 メイナード侯爵は冷たい目で伯爵を見た。


「本来であれば、当番であるスペーダ公爵家が処理するべき問題ですね」


 侯爵は淡々と言葉を続けた。


「スペーダ公爵とマロン伯爵。ちょうど当事者がここに揃っております。二人で話し合って決めてください。まだ湖にはブランコが残っておりますよ。事故が起きたらスペーダ公爵の責任になりますよ」


「侯爵」スペーダ公爵が呼びかけた。


 メイナード侯爵は構わず話を続けた。


「誰の子どもであろうと、誰の妻であろうと、危険だという訴えがあったことに変わりはありません」


「違う。わたしは危険だなどとは」


 マロン伯爵が必死に言った。


「今後、怪我人が出れば困ります」


 侯爵はマロン伯爵の言葉を遮った。


「マロン伯爵家から出された賢明なご意見として採用しましょう。作業はスペーダ公爵がやってください」


「違う。違うのだ」


 マロン伯爵は必死に訴えた。


「奥方ではない、息子ではない。違うんだ。他人だ。息子の奥方は別にいる。届け出もまだ出していないのだ」


 メイナード侯爵は、伯爵を冷たく見つめた。


「ご協力に感謝します。もうお引き取りください」


「侯爵、話を」


「ブランコの件は終わりです」


 侯爵は侍従へ目を向けた。


「そちらの侍女も下がらせてください」


 侍女とマロン伯爵は、侍従たちに促されて会議室を出ていった。


 マロン伯爵は最後まで何かを訴えていたが、連れ出された。


 メイナード侯爵は閉じられた扉を見ながら言った。


「わたしたち自身も子どものころに楽しんだブランコは、マロン伯爵家のご意見によってなくなるということですね」


 会議室に残った者たちは、誰も答えなかった。


 メイナード侯爵は扉のほうへ顔を向けたが、ふと何かを思い出したように足を止めた。


「そうだ。忘れていました」


 侯爵は控えていた侍従へ言った。


「バートとヘドラーを、呼んでください」


「何故だ」


 国王が尋ねた。


「食費を支払わなければなりません」


 メイナード侯爵が答えると、国王は不思議そうに眉を寄せた。


「食費とは、何のことだ」


「娘の食費です」


 侯爵は答えた。


「朝食、昼食、夕食。そのすべてです」


「三食ともか?」


 国王が驚いた声を出した。


「どういうことだ」


「わたしにも理解できません」


 侯爵は妻を見た。


「焼きたてのパンを食べたいという理由で、実の娘へ朝食を取るなと言った母親がいる」


 ついで王妃を見た。


「そして、働いていない婚約者だからというわけわからないことを言い立てて、姪から昼食を取り上げた伯母がいる」


「ウィル、誤解よ」


 王妃が椅子から立ち上がった。


「説明させて」


「説明することがあるのですか?」


 侯爵は冷たく尋ねた。


「アリスは、バートとヘドラーの情けで食べていたのですよ」


「何を言っているのだ」


 国王が王妃の肩へ手を置いた。


「王妃が、アリスの食事を取り上げたというのか」


「詳しいことは、王妃殿下からお聞きください」


 侯爵は国王へ言った。


「わたしは、姉上がアリスを大切にしてくださっていると思っておりました」


 侯爵の声が、わずかに震えた。


「大事な娘を……可愛がってくださっていると信じていました」


 そのとき、扉が開き、バートとヘドラーが会議室へ入ってきた。


 二人は王族や侯爵がそろっているのを見て、一瞬だけ足を止めた。


「お呼びでしょうか」


 バートが尋ねた。


 メイナード侯爵は、あらかじめ用意していた袋を二人へ差し出した。


 一人に二つずつだった。


「これは?」


 ヘドラーが尋ねた。


「礼だ」


 侯爵は答えた。


「アリスが王太子殿下と婚約し、王宮へ通い始めてから、二人にはずっと世話になった」


 侯爵は袋を差し出したまま続けた。


「食事を取らせてくれたことへの礼だ」


 バートとヘドラーは驚いた顔で侯爵を見た。


「このような形でしか礼ができないことを、申し訳なく思う」


 二人はしばらく動かなかった。


 やがて、黙って袋を受け取った。


 それから侯爵へ深く頭を下げ、何も言わずに会議室を出ていった。


 メイナード侯爵は、国王夫妻へ向き直った。


「家族だけで、もう一度話し合いましょう」


「家族だけ?」


 国王が聞き返した。


「王家と侯爵家です」


 侯爵は答えた。


「日を改めて、こちらから連絡いたします」


 そう言い残し、メイナード侯爵は会議室を出ていった。


 あとに残されたのは、顔色を失った王妃と、いまだ何が起きていたのかを理解しきれていない国王だった。

いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

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それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
<気になった点> 「子息の奥方」という言葉に違和感がありましたので調べた所、「子息の妻」に対する丁寧な言い方とありました。 今回の件の「子息」はブランコで遊んでいた、子供と思うのですが、「子息の母」又…
すげぇ この状況で招集令も出せない王とか、存在価値が無いぞ
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