旅空13
「長命種の悲哀ですか?」
居るのは分かっていたので、驚きはない。
「そうですね。老師は随分とお年を召していますが、この手の経験はご豊富な筈。何か御教授いただけないでしょうか」
人生の先輩にアドバイスをいただきたい。ちょっとでも良いので、今は出口が見えない迷路にいるみたいなんだ。この方と話していると心が落ち着く…
「そうですな…月並みな事しか言えませんが、精一杯生きよ!と、申しておきましょう」
「そうですよね…ですが今は少しばかり難しい事です…」
「存分に泣き、存分に笑い、存分に生きなされ。そうすれば後悔があっても無くても、笑って逝けます」
そうなんだろうな。こんな思いはきっと皆が経験して行くんだ。ただ、それが俺の場合は人よりもそれが長く続くだけで…
「今はまだ無理でも慣れるものですよ…こんな物は慣れるべきものじゃないんでしょうがね、人はそれでも慣れていきます。気付けば大樹の様に揺るがなくなります」
慣れる…そうかもしれないな…でも慣れるだけじゃ駄目なんだろうな…それじゃあ心が摩耗して緩やかに死んでいくだけだ。それが嫌なら、この命を精一杯使おう。他人より長いから、多少は寄り道しても良いだろう。でも…でも……
2匹の安らかな顔が思い浮かぶ。最期はああ在りたいな。
「御教授、ありがとうございます…揺るがぬ大樹に成れるかは分かりませんが、老師と話していて気付きました。コレは皆が通る道だと。私はその期間が長いだけで、その本質は変わらないと気付きました。月並みとは真理故に聞き馴染みの有るものと、今改めて実感致しました」
生き切った姿を見せられたんだった。何時迄も下ばかり見ていたら、アイツに笑われちまうな。アイツは表情も豊かだったもんな…
「老師、感謝いたします。少しは前を向けそうです。貴方様の声を聞いていると、自然と落ち着いていきます。以前もそうでしたが、また迷う事があったら伺わせていただきます」
「それこそ、その時には私は居ませんよ。お迎えがいつきてもおかしくない歳ですからね」
老師に笑っていなされた。
お体ご自愛下さいと、老師に挨拶し、聖堂を辞去する。
だいぶ心も落ち着いた。従姪達が手ぐすね引いてる伯父さんの家に帰りますか。あの子達もしっかり愛そう。
「伯父さん、そう言えば氾濫の時お世話になった隊長さん…名前なんだっけ?マルケス?さんだっけ?隊長さんって今どうしてるか知ってる?」
「マルク様だな。あんなに一緒に居たのに忘れたのか?マルク様は今は砦の大将になられてるぞ。娘様のセシル様も隣領のお妃様になって、今やこの街じゃなくて、この領の重鎮におなりあそばれた」
「はぁ?あの隊長が?重鎮?ウチの村に伝令で使い走りさせられてた、あの隊長が?嘘でしょ?」
「お前にこんな事で嘘ついてどうする。なんなら、木材の大商いや新商品の出資にもご協力頂いてる方だぞ?せっかく此処に居るんだから、お前も挨拶に行くか?」
「あー、それはさすがに行った方が良さそうだね。でも、明日行って明日会える様な立場じゃないでしょもう」
「一応俺の名前でご機嫌伺いを今日中にすれば、明日には会えると思うがどうする?」
「それなら是非会いたいな。あの人にも色々迷惑かけたから、来ていて会わないのも不義理かなと思うんで」
「なんだアルス、一丁前な事言う様になったじゃないか」
「伯父さんさぁ…俺だって、こんな形してるけど、もう33だぞ?そりゃ何時迄もガキじゃないって…」
お前、もうそんなになるか⁉︎って驚いてるけど、そんなになるんですよ。若造りなだけなんですよ?




