旅空12
「コレどう思う?」
実演用に店舗の奥まった場所で脱穀機を回してみせる。此処は非力ばっかりで、動かすのが少し大変だった。
「麦の実物が無いと分かりずらいけど、まあまあ使えるよ。叩き落としたり、扱箸使うのに比べたら何倍も早いね。コレを伯父さんに任そうと思うんだ。親戚価格で」
「壺はいらんぞ?」
「いつの話をしてるのさ」
そんな事もあったね。懐かしいよ。
「コレを売った利益の5%を教会に寄付して欲しいんだが?伯父さんの名義で構わないから、コレを授けてくれた天秤神様に幾分か寄付して欲しい。それが条件だけど」
「俺は構わんが、お前の取り分は?」
俺は首を振り、謝絶する。
「別に金が欲しくてやってる訳じゃ無いからなぁ。研究する分の資材と金が有れば事足りてるし。もし気が咎めるなら、ネロ兄のとこの開発に行商でも沢山回してあげてよ。あっちはまだまだ広がり見せてるしさ。タダには教義上できないから、他に回すよ。此処の教会なら間違い無いし、俺はそれで良いよ」
俺の代わりにこの機械を広げてくれ。それが今の俺にとっては一番の報酬だよ。
「お前が良いなら良いが、今回は元手が少ないから、そんなに貯められないぞ?」
「良いよ。全部伯父さんに任せる。抜け目ない伯父さんなら、なんとかするでしょ?それと紹介文が欲しければ、それくらいなら書くよ?ただ、前回組んだ相手は胆っ玉が小さかったから、どうかな…」
店主は前回ほど大博打するかな?ほどほどでやめそうだけど、原資が大きいからそれなりの規模にはなるかな?一応紹介状は渡しておこう。
かわいそうに、ヨセフ君の試練はまだまだ続くんだね…
そんなやり取りをして、伯父さんの所に逗留させて貰う。形見のアクセサリーが完成するまでしばらくお願いします。
夜にクララちゃんの娘に集られた。今は細工師さんにお願いしてアクセサリーを作ってるなんて話したら、クララちゃんも「そういえば昔髪飾りを買ってもらった」なんて言っちゃうもんだから、娘ちゃん達が集ってきました。
路銀はたんまりあるし、まあええやろう。
「ただ、明日は聖堂に行く予定だけど大丈夫?朝早くからだよ?」
うん、子供だもんね。朝からは嫌かぁ。それなら、お勤めを果たしてから一度戻ってきますか。お昼くらいに戻ってくるから、それまでに用意しときなね。
朝、聖堂前に行くと以前と同じ様に掃除をする方がいて、聖職者達は朝の礼拝を行なっていた。聖堂内には敬虔な教徒が礼拝に参加しており、俺もそこに参加させて貰う。
目立たぬ程度に祈りを捧げ、礼拝が終わった後に記憶を辿りながら墓地に向かう。綺麗に掃除され、まだ新しい花も添えられたそこに、首を垂れる。
「大司教様、御報告があります。貴方から託されたこの天秤に一つ失われていた物が戻りました。きっとあそこに行った事も導きだったのでしょう。ならば、今のこの思いも導きなのでしょうか?」
身近な者の老いや別れを経験して、時というモノを否応なしに意識させられる。
図らずも、この旅はアイツらとの思い出をなぞる様なものになってしまった。馬具を扱う店が見えた時、迷宮が見えた時、ふと、思い出される思い出が、此処には…
喜びももあれば悲しみもある。でも今はどれだけ前を見ようとしても、やっぱり俺より早く訪れる終わりを意識してしまう。心から愛すれば愛するほど哀しみが深くなる。
母やネロは後どれだけの命数が?クロや娘達は?そんな命数を数える様な生活は誰も望まないのに、そればかりが気になる。
嗚呼、皆やあの子達の命が愛しい。
「違う時間を生きるのが、こんなに苦痛とは思いもよりませんでした…どうしたらこの思いを昇華出来るのでしょうか。導きを神よ…」




