旅空11
「この鬣を使って、チャームを作ってください。愛馬達の形見なので、身近に置きたくて。それと馬が彫られたロケットは有りませんか?」
銀細工職人に、箱に詰めた毛の束を託す。2匹の毛を混ぜたそれを、職人は快く受け取てくれた。死ぬ時まで一緒だったお前達なら文句はないだろ?死んでも一緒だ。
お任せ致しますと、丁重に頭を下げて、後日伺う事にする。逗留先にホセ伯父さんの所を言えば、扱いが一段上がった。
どういう事だ?
大通りから一本中に入った伯父さんの商会に行くと、そこには店が無く、倉庫になっていた。
倉庫の片隅で、昔ながらの付き合いしか相手にしない様な小さな店があり、ますます訳が分からなくなる。見知らぬ女性が店番をしており、倉庫の方では威勢の良い声が聞こえるので、倉庫の方に声を掛けてみようかな。
「ごめんくださーい。ホセ伯父さんは居ますかー?甥っ子のアルスでーす」
「すいません、そちらは今は倉庫でして。会長の親戚の方でしたか?会長は本店に居られるかと」
倉庫を覗き込みながら声を掛けたら、店番をしていた女性が声を掛けてきた。
「本店?ここが本店でしょ?」
「いえ、今は大通りの方に本店を移し終わったばかりでして。数年前から木材で大商いをいくつも取り付けられまして、今じゃ大店の仲間入りですよ!今も新商品が飛ぶ様に売れていて、大忙しですよ!あ、紹介が遅れました。私、若旦那の妹のキャミーです。ところで、アルスさんって、あのアルスさんですか?」
どのアルスさんやねん?「あの」の部分が不明瞭過ぎて分からんねん。
「さぁ、どのアルスでしょう?このアルスでしょうか?そのアルスかも知れませんね」
指示語を明瞭にしなさいと言ったら、コロコロと笑われた。
若い娘さんはオジサンには難しい…
「ホセ伯父さん、お久しぶり。儲かってるみたいだね。此処ってもしかして、昔油でやらかした所の跡地じゃないの?」
「あぁ、だいぶ稼がしてもらった!それと、此処はあの駄目な倅の店だった場所だ。とうとう見返すことが出来たわ!あの一件でジリジリと落ちぶれていって、遂に店を手放す事になっちまった。なんでも、あそこの倅、悪事にも手を出していたらしくてな…悪評が広がってからは、閑古鳥が鳴いてたから俺が買ってやったって訳だ!」
精力的に活動しているからか、60に近い老人に全く見えない伯父さんが居た。平均寿命は絶対越えてる筈なんだけど、あと10年は生きそうな生命力を感じる。超人やな。
逆に若旦那の方はだいぶ草臥れてる。こりゃ相当忙しそうだ。
「そういやアルス、親父は残念だったな。お前のとこの確執は知ってたけど、それでも実の親父の死は応えたか?随分と時化た顔してるじゃないか?」
「いや、親父の死には何も感じるものは無かったな。ただ、この帰省で愛馬が逝っちまってね…そっちのがよっぽど応えたよ」
アイツらとは苦楽を共にしてきたからさ。時間もそうだけど、時間の濃度が全然違うんだ。もっと長生きしてもらいたかったよ。
「そうか、あの馬鹿でかい馬もとうとう死んじまったか。弟も逝っちまうし、そりゃ、俺も歳をとる訳だ」
いえ、貴方は全然若々しいですよ?
ステラさんのが全然年下だった筈なのに、今じゃ揃いの夫婦感出てますよ?あなたもエルフの血脈です?
「それより、唐箕の方はどうだい?模造品がそろそろ出てきてもおかしくないんじゃない?造り自体は簡単な物だから、ある程度の加工技術があれば簡単に真似る事が出来るんじゃないかと思うけど」
「まだ大っぴらには出て来てはいないな。ただし、村で一個買っちまえば、出来は悪いが似た様なものは広がるだろうな。そこはしょうがない。此処らの富農からは搾り取ったから、それで十分だろう。後は在庫を切らさない程度に確保しつつ、遠方に売りに行くくらいだ。な!ヨセフ‼︎」
あー、ヨセフ君がゲッソリしてるのは、遠征隊してるからかな?御愁傷様です。
「そんな忙しい伯父さんに申し訳ないんだけど、次の弾が有るのですが…聞きたい?」
ヨセフは泣いた。スマン…




