拠点暮らし37
ふむ、店主は堅実だが機を見る目は無いか。大店だから、堅実に回せればそれで足りてしまう故に冒険するか迷うのだろうな。どれ、尻でも叩いてやるか。
「カイル!店主様が日和ってる!これ以上は無駄だ!オレの故郷に走れ!ネロにアルスから勝てる賭けが有るから乗らないかと言伝して来い!お前も一度見ただろう?あの広大な農地の村を。オレとネロと仲間達で築いた場所だ。アイツらなら無条件でオレに全賭けする。こんな回りくどい事になるなら店主、もう結構だ。カイル、今手紙を書く。それを持って行け。村に着いたらネロから伯父に渡りを付けてもらえ。それで万事上手くいく」
店主の手から改善書を取り返す。
「恨みっこ無しだ、店主。この話はここまでだ。また何かあったら頼むよ。さて、ガイ、少し忙しくなるぞ。お前は一足先にトゥールの聖堂に行き、助力を願え。オレが助力を求めていると、大司教様へ伝えろ。聖体を拝領したアルスと伝えれば通じる筈だ。そちらにも今から手紙を書く。少し待て。もし証を求められたら、先の大司教様から授けられた、このロザリオを見せよ。或いは墓守の老爺がまだ居られたら、助力をそちらに請え。彼の方は尋常の方にあらず。お名前は伺わなかったが、彼の方のお声掛けならば聖堂も動こう。あまり大袈裟に捉えないで頂けるように説明してくれ」
ウェインはまだ顔をしかめたまま、考えこんでいたが、私の切替わりに、驚きの表情を浮かべている。
「ウェイン、すまなかったな、忙しい中呼んで。それに余計な事でお前を悩ませてしまったようだ。今日の事は綺麗に忘れて、コレからも慎ましく家業に励むんだぞ。では、帰って良いぞ。カイル、人が足りない。人を挙げろ。強き者、機転が効く者が望ましい。私も少し伝手を辿る。ランス殿の仲介が有れば大抵は話も通るだろう」
切られたと直感して慌てはじめたかな?ダメじゃないか。
「アルス殿‼︎俺に!俺にやらせてくれ!」
「ん、ウェイン?まだ居たのか?もう用は済んだ。下がりなさい。それでカイル、誰を挙げる?」
「セロとフェリクスだな。2人とも強く、機転が効く。ところで、村長じゃないアンタはなんて呼べば良いんだい?俺は出来れば村長に命じてもらいたいね」
「私も同じアルスなんだがね…そうだね…便宜上、『天秤』のアルスとするか。ただ好きに呼びなさい。村長でも治療師でも先生でも、好きな呼称で呼べば良い。それと、今あの子は面倒がっていてね。モノグサな子だし、放り出しそうだったので変わってあげたのだ。私は『歯車』とは違い商いが好きでね。昔は主人と良く商いをした物なんだ」
さて、楽しくなるな!昔、主が暴れ蜥蜴のガラクタだった骨や牙で、輝く石や美しい紋様の器等を交換して極上の笑みを浮かべていた姿が今も鮮明に思い浮かぶ。あの頃から、私は貴方様の…
「頼む、頼むからお、私にやらさせて頂きたい!アルス殿!お願いだ‼︎」
ほら、貰いが少なくなった。
「ウェイン?掛りと配分は?お前が納得した答えを出しなさい。オレも神職の端くれだからね。暴利を貪りたい訳じゃ無いが、別に対等と言う訳でもないんだ。動かそうと思えば動かせる地盤くらい持ってるんだわ。で、店主、どうすんの?幾ら出すよ?」
邪魔すんじゃねぇよ、これは俺の商談だっての‼︎
「お、村長、戻ったか?圧がヤバいからいきなり切り替わるのはやめてくれよ。ウェイン殿だって、途中で萎縮して何も喋れなくなってたんじゃないか?」
「うるせぇ、ありゃコッチで制御出来るようなモンじゃねぇよ。気紛れに顔出してくる時なんかは、尚更無理だわ。で、どうすんだっての、店主?同胞に富を分け与えてやらないのは少し薄情なんじゃないか?…分かったからそれは後だ」
うむ、両者の尻を叩けた事だし、この辺で引き下がってやろうか。




