拠点暮らし29
『パン教徒の変』が落ち着いた頃、ガイ君が袋を持って研究室に訪ねて来た。
「先生、料金のライ麦粉です。どれくらいの率か分からないし、先生はパンが好きじゃないから、取り敢えず1/20の徴収率で良いか?少ないなら1/18までは無条件で上げてもいいって皆は言ってるが?」
「なんそれ?え、水車の使用料?別に要らないんだが?むしろ引っ越してくれるのが1番の報酬なんだが?」
「正当な対価だから受け取っておきな。使わないなら、交換に回しても良いだろうし。おすすめは、自分好みの至高のパンを追求してみるって事だ」
「いや、それはない。どんなに頑張ったところで、所詮はパンだ。出発点が地の底なんだから、わざわざ天上の食物である麦粥をやめてまで、探求する価値がない」
食い気味に否定しておいたわ。
それにしても徴収とか考えてもなかったわ。
でも言ってしまえば馬なんかの家畜とか農具の貸し出しみたいなもんか。そう考えれば納得だな。
でもそれなら、粒のままのが良かったな…保存出来る期間も長いし。使わないで駄目にする未来が見えるぞ。
「ガイ君、コレと同じ重さの製粉前の麦に変えてよ。どうせ使わないから、保存が効く方がいいし、来年の種籾用に取っておいたのでも良いわ。その辺は適当にお願いするよ」
ライ麦でも小麦でもそこは変わらんねん。というか、記憶として地球のパンを知ってしまっているので、現世のパンとかとても同じ物とは思えない。
粗悪な麦粉だと麦藁が混ざってたり、バカにならない量の砂利が混ぜられていたり、オーガニック通り越してネイチャーなんよ。
それに比べて粥は硬くなくふやけてて、砂利は沈澱して排除されてたりと、ちゃんと食い物してる。それだけで、大正義だろ。
自分で納得するほど挽いた麦とて、工業的に磨き上げられた物と比べたら、砂みたいな物だしな。真っ白い麦粉なんて、夢のまた夢ぞ?
それを知っちゃってるこっちからしたら、何が悲しくて超劣化粗悪品を食わにゃならんってなるわけよ。
到達点が遥か天上の彼方だって分かってるから、心が折れてるともいう。
こっちはやっと金属歯車の研究に着手したばかりやで?工業的な製パンとか何十年がかりの大事業になるんや?たかだかパンの為に?やりたい事が押してるので、無理だわ。
「別に構わないけど、種籾の貸付とか言って後で法外な徴収とかしないよな?」
「君は俺をなんだと思ってるんだ…あー、でもそれが普通なんか?もしかして?別に大麦以外の麦とか俺はそもそも要らんのだが…」
面倒だから、その辺も適当に契約巻いといてよ。タダじゃなきゃ良いから。タダは教義上赦し難い冒涜的所業だから出来ないけど、面倒なんで低利でいいからカイルと諮って宜しくやっといてよ。
「先生ならそう言うか。基本的にはアンタ凄くいい奴なんだけどなぁ…変人じゃなきゃもう言う事なしなんだけど…」
ここでも変人認定を受けてしまったか。
「変人でもなんでもいいから、俺の次の実験の前にはちゃんと引越ししろよな」
「おう、出来そうならちゃんとそうするわ」
コイツらぁ……




