拠点暮らし11
「助けるも何も…もう2人は死んでますよ、サーシャ」
弓から手を離し、完全に攻撃の意思を放棄して見せたサーシャは後ろを一瞥して、それでも問題無いとばかりに問い掛けてきた。
「2人がゲームみたいな凄い力を奮ってたみたいに、アルスさんも出来ますよね?ゲームみたいに復活の魔法とか出来るんでしょ?」
随分と確信的だね。何か気付かれる要素でも有っただろうか?
まるで地球人だと分かってる様に話すじゃないか。
「死者の蘇生が、どれだけの奇跡か理解しているかな?それに何でそう思うんだい、サーシャ?」
「『博愛精神』ですよ、アルスさん。博愛精神ってね、キリスト教由来の考え方なんですよ。その考えが出てくるのは、少なくとも私の知る地球の考え方なんですよ。それに、あの2人の持っていた知識もそこまで外れる事はなかったんですよ?大きく外れたことなんて、たったの一度だけだったんですよ?初めて貴方と会った時です」
あぁ、つい口が滑っていたのか。それと、以前から少し疑っていたと。
なる程、実に慎重で思慮深い。そこの2人よりも遥かに良い。
「天秤神様は調和も司っているんだ。博く愛する心を持っていて、何の不思議がある?」
「商売神様の調和の教えは、場を乱さない、適正な商こそ人の最適な交わりだ、こんな教義だったはずです。とても博愛なんて説く教義じゃありませんよ。あくまで均衡を良しとする様な神様だったはずです」
うん、良く学んでる。直ぐには騙されないか。確かに天秤神様の説く調和は、博く愛する様な教義じゃないね。敵は敵だし、隣人だって選り好みする。赤子にする以外で、無償の愛なんてとんでもなく、対価での吊り合いが尊ばれる教義だね。
「君は良く見て、良く聞いている。そして良く考えてもいる。素晴らしい。その醒めた目で、今が挽回の機会だと捉えてるのかな、狩人?」
君は夢から醒めて此処で生きてきたんだね。3人の中でも君だけ温度感が違っていたのは、君だけがここの世界でちゃんと生きていたからなんだね。その点は俺よりも立派かもしれないね。俺も少し箍が外れるときがあるからね。
「私は2人と違って、こちらに一緒に飛ばされた時、何も分かりませんでした。部活が弓道だったからか、猟師の家に産まれ、両親と兄姉に愛されて育ちました。だからですかね、ここが2人のいうゲームの世界には全然思えませんでした」
「そうだね。使い古されて陳腐な台詞になってしまっているけど『此処はゲームであってゲームじゃない』ってところかな?でも同時に、地球を知る身では、そう感じてしまっても不思議ではないほどの力が手に入るからね。彼らが自分達こそ、この物語の主人公と勘違いしてしまったとしても、分からなくはないんだ」
だって、俺もそうだったからね。
そうだね、認めよう。俺も転生者だ。
まるでゲームの様に訓練や鍛錬が能力に反映されて、信じられないチカラが簡単に使える様になるんだ。チカラに溺れるのも宜なるかな。
でも俺には彼らには無い、チカラ以外の俺を支えるもう一つの柱が有った。そこが彼らとの違いだったのかな。
信仰だ、神様の存在だ。
「アルスさんも物語の主人公みたいな力が有るなら、2人を助けられると私はみています。それにその手の天秤、普通じゃ無いですよね?神器なんじゃないんですか?」
ケインもいつかは聖剣とかの神器を手に入れるって、言ってました。
そう呟くサーシャ。
彼女はコレを警戒し、勇者はコレを戦利品と求めた。
現実と物語を生きた差かな…
「そうだね、この拝領した聖体の天秤は神器といっても全く差し支えない物だね。そして、君達が杜撰に扱っていたその品は、この神器の付属品の分銅だよ」
使徒ケインも聖女ナタリーも何故この神威に気付かないのか?
天秤の子ではない秩序の子であろうとも、コレには流石に気付くだろう。
たぶん気付いていても関係無く壊そうとしていたんだろうな。
「色々鑑みて、オレに彼らを救う意味がないな。彼らは敵で、冒涜者だ。なんの益もない。後腐れ無く此処で死んでもらう方が良いと、オレは判断した」
「2人を助けてくれたなら、私がそれを探します」




