拠点暮らし9
其れは一見、ただの金属の粒に見えた。その粒は金属片とでも云うべき微小な物が数枚と、それよりは明らかに大きい粒が幾つか。中間になりそうな粒が無いので、きっと欠けがまだあるのだろう。
「魔法銀の欠片なんですが、コレならアルスさんも気に入ってくれると、俺は確信してます!コレで今回の治療代に成りませんか?」
背筋がぞわぞわする。あぁ追い付いたのか…追いつかれたのか
「え、えぇ、構いませんよ。ちなみに、まさかこれを使って装飾品を造ろうとしたりとかしていませんよね?」
秩序の!貴様!なんて事を!聞いたぞ!この耳で!聞こえたぞ‼︎
あの時の言葉が耳に蘇ってくる。君達は本当に何で?何で分からない?
「そうなんですよ!でもそれ、どうも加工が難しい品らしくて、熱しても叩いてみてもどうにも出来なくて、鍛冶屋も匙を投げたんですよ。使えない素材って事で、引き取りも拒否されましたし」
それはそうだろうな。久々に制御が利かなくなる。オレが暴れ始めている。それも仕方のない事だと俺も理解出来てしまった
「これは何処で手に入れた物なのかな?」
大司教様、貴方は何かご存知だったのでしょうか?御存命のうちに、一度訊ねるべきだった、今は後悔しております。お赦しください。
「トゥールの40層を攻略した辺りで、知らない間に手に入れてました。死闘だったので、良く憶えてないのですけど、あの時出た宝箱に入ってたのかもしれないです」
誇らしげだね、勇者。それがどんな物かも知らずに鋳潰そうとしたのに
「そうかい。其れは素晴らしい働きをしたね、勇者よ。ただ、その後がいただけない。あまりの愚かしい行動に殺したくなるケイン君、今直ぐに此処から去れ。悪い事は言わない神の怒りを買いたいのか?そこの偽神官はいいかコレと同じ物を見つけらかならず此処に持って思えない。貴様は本当に神の信徒か、女狐?」
『失われた分銅を探し出すのも面白いかもしれませんよ?』
大司教様、俺には使命とか重過ぎます。何でこの聖体を俺に託したのでしょうか?
俺の手には余る代物ですよ…
「勇者よ!使徒よ!応えよ!何故分からない!この神気溢るる!サッサと行け‼︎さもないと」
「「神罰を受けたいか?」」
俺とオレの声が重なる。抗う気力が…
手元にはいつからか天秤が握られていた。いつ?分からない。でもそれは当ぜんのすがた。おれはしとてんびんをゆらすおろかものにたいかを。呑まれるな!此処で呑まれりゃ、前の二の舞だ!
「NPCと敵対とか聞いてないんだけど⁉︎」
「ケイン、ヤバイよ‼︎コイツ、賢者系の上位職業かも!神聖魔法は私よりも確実に上だし、攻撃魔法も昔から使えてた‼︎それにあの手に持ってる装備、見るからにヤバそうな雰囲気よ!」
「アルスさん!どうしたんですか?しっかりして下さい‼︎」
三者三様の悲鳴が上がる。突如豹変した俺に彼らは臨戦態勢をとるが、微塵も負ける気がしない。例え相手が秩序の使徒だとしても。
「ケイン君、憶えておけ。コレと同じ物を見つけたら、必ず此処に持ってきなさい。この取引はお互いの為だ。そうしないと、俺は君を殺してでも其れを奪い取らないとならなくなるのでね」
全く目の笑ってない聖者の笑顔が顔面に張り付き、手に握られた天秤は傾いていた。




