拠点暮らし5
「この雄の仔は俺が貰ってく。大きくなって群れから出されるくらいなら、今俺が引き取る」
目が完全に堕ちてるネロ兄に、ホル君が誘拐されてしまった。ウチの群れはそんな事させないのに…なんて酷い言いがかりを付けるんだ…
あれはダメだ。完全に堕ちた目をしてやがった。俺には分かる、俺にだけは分かる!
あの目は、俺が吸っている時の目だ。完全にトリップしてやがる。
「ネロ兄、耳が良いぞ。最高にキマるし、そこは慣らしてある。ちょっと吸ってみ?至福を味わえるぞ?」
ネロ兄は堕ちた。
「お前が勧める街に出掛けてみる。ウチの連中全員で行っても大丈夫か?荷物の整理はそっちに任せても良いんだな?」
「あぁ、問題ないよ。案内にガイをつけるから、持ってきた巻糸だけは商品で持っていきな。向こうでも良い値で売れるかもしれないから。欲しい物をそれで買って帰れば良いと思うんだ。きっと目新しい物が多くて、アレもコレも欲しくなると思うんだ」
ずっとホル君を構い倒して、俺を一切見ないネロ兄に思うところがある。
その子はウチの子や。簡単には渡さないぞ!
おい、街に行くのに、その子は必要ないだろ⁉︎
ネロ兄はホル君を自分の服に突っ込んで、颯爽と街へ旅立った。アイツ、本気やな…
仕方ない、きっと街でショックを受けるだろう。その時、ホル君さえ居ればネロ兄はきっと立ち直れる…
ホル君のお耳がタイヘンな事になってしまうかもしれないけど、それも仕方ない。
それで嫌われて、誘拐されなくなるのも全然ありだ。
ただ一つ問題があるとすると、耳はもうだいぶ慣らされてる事か…俺が…やり過ぎて…しまったかも……
ネロ兄は普通に街で楽しんで、色々買い込んできて帰って来た。
「セイルはどうだった?トゥールも初めて行った時は驚いたけど、セイルっていうより、大河流域の発展度合いが凄くなかった?」
敢えて俺は付いていかなった。俺が感じた感動と、敗北感をネロ兄とは是非共有したかった。俺たちずっと一緒にやってきて、荒野からあそこまで発展させたもんな。
それなのに、こっちじゃそんな発展なんか、河一本で全て覆されるんだ。この敗北感を共有出来るのは、ネロ兄くらいなもんだよ!
「ん?そんな所まで気にしてない。人も物もいっぱいで凄い都会だな、とは思ったけどそんなもんだな。この子に合う首輪を選ぶのに夢中で、それどころじゃなかった。見ろ!この真っ赤に染められた首輪を!とても良く似合ってるだろ⁉︎」
バカがよぉ!あ、犬バカでしたか…俺もやぁ…
「よく似合ってるけど、本当に連れてくの?いくらネロ兄とはいえ、この子達を不幸にさせる人には渡せないよ?」
「任せろ!村でこの仔を立派な牧羊犬に育てるから。この仔はとても賢いから、良い牧羊犬になるだろう。犬の数も増やさなければならないと、この旅で強く思ったぞ」
本音と建前がダダ漏れですが?でも、ネロ兄ならこの仔を託しても大丈夫か…
ホル君を宜しくお願いします、ネロ兄。
何日か拠点に逗留していた皆も、とうとう村へ帰って行った。その中には勿論、ホル君もいて、寂寥感に襲われる。ずっとここにいても良かったのにという思いとか、可愛がってくれる先に貰われて良かったな、幸せになれよって気持ちとか…
纏まらない感情でクロちゃんと並んで皆の背を見送るのだった。




