2話 歓迎ハドロドロ
次の日の朝は、妙に静かだった。
静かすぎて、逆に落ち着かない。
(……テストの日ってこんな空気だったか?)
机に向かいながら、そんなことをぼんやり考える。
まだ入学して間もないはずなのに、この学園の“流れ”はやけに速い。
テスト開始
1時間目は国語。
問題用紙を開いた瞬間、違和感はなかった。
普通だ。
難しすぎるわけでも、簡単すぎるわけでもない。
ただ──
(なんか、引っかかるな)
文章の奥に、妙な“圧”がある。
解ける。解けるが、油断したら落ちるタイプだ。
2時間目、数学。
ここは少し癖があった。
素直に解けば時間は足りる。
だが一箇所だけ、わざと視線を逸らさせるような設問がある。
(ここ、嫌だな……)
気づいた瞬間、少しだけ背筋が冷えた。
試験というより、選別に近い。
3時間目、英語。
これは逆に静かだった。
余計な引っ掛けもなく、ただ実力だけを見ている。
(……一番楽だな)
そう思うくらいには素直だった。
気づけば、全教科は終わっていた。
手応えはある。
だが、それが正しいのかは分からない。
周囲を見ても、同じような顔が並んでいた。
安心でも不安でもない顔。
ただ、“終わった”という顔だけがそこにある。
■結果返却
翌日。
異様な速さで答案は返ってきた。
この学園では、時間の感覚が少しおかしい。
(もう返ってくるのかよ……)
机に置かれた答案を見下ろす。
国語92点
数学90点
英語97点
(悪くはない)
むしろ十分すぎる。
だが、その瞬間に現実がずれる。
「学年3位」
その数字だけが、やけに重かった。
(……3位?)
英語は1位。
それでも3位。
つまりこの学年には、俺より上が少なくとも2人いる。
(マジかよ)
驚きより先に、妙な納得が来る。
周囲を見ると、誰も騒がない。
むしろ当然のような空気。
(おかしいだろ……普通これ騒ぐだろ)
自分の常識の方がズレている気がしてくる。
「すごいね、五条くん」
霧山優菜が覗き込んでくる。
その声は軽い。
この異常な空気の中で、それだけが“日常”だった。
「いや、見るなって」
「でもほんとにすごいよ?」
悪気のない笑顔。
それが逆に現実感を薄める。
今度は横から声が入る。
「お前やるじゃん」
田村颯太だ。
「お前も悪くないだろ」
「いや、低いわ」
「基準バグってるだろ」
軽口。
それだけは普通だった。
教室前方に名前が貼られる。
1位:石原
296点
(化け物か)
3位との差は18点。
数字としては小さいのに、妙に遠い。
すると突然、隣の席の男が振り向く。
「五条くんだよね」
「3位おめでとう」
「嫌味か?」
「違うよ」
静かな声だった。
そこには本当に悪意がない。
だからこそ、少しだけ怖い。
(このクラス、全員が“普通じゃない”)
そんな感覚だけが残る。
午後は部活動見学に回される。
2週間。
授業の代わりに、それが続く。
(自由って、こういうことか?)
自由というより、選別に近い。
最初に見たのは陸上部だった。
風を切る音だけがグラウンドに残る。
速い。
ただ速いだけじゃない。
無駄がない。
(完成されすぎてるだろ……)
自分の過去の記録が、急に軽く感じる。
「運動部は多いな」
田村が隣で言う。
「お前は?」
「陸上。全国8位」
(普通に上澄かよ)
この学園では、それが“普通の上”らしい。
サッカー部、野球部。
どこも熱量は高い。
だが、何かが違う。
(ここじゃない)
そういう感覚だけが残る。
2階に上がると、空気が変わる。
騒がしいはずなのに、妙に“遠い”。
音が壁に吸われているみたいだ。
部活の数は70以上。
掲示板には文字が詰め込まれている。
(多すぎだろ……)
その中で、一角だけ妙に静かだった。
すると
「ここで何してるんだい?」
背後から声。
振り返る。
長身の男。
朝倉康太。
心霊部の部長。
最初、心霊部と聞いて少し驚いた
(こいつが……)
軽い笑み。
だが目だけが違う。
そこだけが妙に“観察者”みたいだった。
「部活、決めた?」
「まだです」
「弓道は?」
「やらないです」
「そうか」
少し間を置いて、彼は笑った。
「なら、ちょっと見ていく?」
その一言で、空気が変わった。
理由はない。
でも、ここから先が“普通じゃない側”だと分かる。
「心霊部を」
その単語が落ちた瞬間。
周囲の音が、一段だけ遠のいた気がした。
(……心霊部)
ただの部活名のはずなのに。
なぜかそれだけが、妙に重かった。
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