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狼獣人になったが、俺以外の連中がまともじゃない  作者: 双六
アンダーカーペット -遭難者を探せー
9/33

アンダーカーペット(2/3)

「見覚えのある尻尾と毛皮だなぁと思ったらやっぱり大牙さんでしたか」


 鬱蒼とした森の奥からさくらの声が響く。どうやら拡声器を使っているらしいが、距離にして二十メートル遠方からさくらは動こうとしない。じっと俺の様子を伺いながら、背中のロボットアームを操作していた。

 立ち込める悪臭に顔をしかめながら俺は必死に大声を出しさくらへと応じる。


「てめぇなんのつもりだ。つーかこの球は何だ? とんでもねぇ悪臭なんだけど!」

「ああ、暴漢撃退用の非殺傷兵器です。下水道の匂いより百倍臭いレベルの匂いで対象の動きを制限するんです。MS機関が開発しました」

「そんなもんをぽいぽい投げてくるんじゃねぇよ! 気絶するかと思ったぞ」

「いっそのこと気絶してくれた方が私は良かったんですけどねぇ。ライバルは少ない方が良いですし」

「ライバル? ‥‥‥まさかお前も懸賞金目当てか?」

「会長の息子さん探しをしているのは正解ですけど、私はお金目当てじゃないです。どっかの貧乏狼と一緒にしないでください。私はもっと崇高な目的のために協力しているんです」

「‥‥‥一応聞くがその目的ってのは何だ?」

「会長さんは芸能界にもコネを持っていますからね。恩を売って桜沢くんと一日デートできる機会を作ってもらおうという崇高な目的ですよ」

「結局いつも通りじゃねぇか! このアイドルオタク!」

「勘違いしないでください。私は桜沢くん一筋です。他の量産型劣化イケメン風アイドルなんて眼中にありません。桜沢樹オタクです!」

「どっちでもいいわ、そんなもん! お前自分が何したか分かっているんだろうな? 俺への妨害行為。これは喧嘩売られていると受け取って良いんだよな?」

「ご自由に。今回の私たちは競争相手ですからね。大牙さんの嗅覚の脅威は私がよ〜く知っています。何だか手がかりを見つけたみたいな顔をしていましたから妨害しました。そのこやしボールをまともに受けてはしばらく鼻は機能しないでしょう?」

「相変わらず過激な女だな。お前もやっかいな奴だからこの場で仕留めておくべきかもなっ!」


 そう言って俺はさくらへ向けてダッシュした。二十メートルの距離なら俺はすぐに追いける。接近したらロボットアームをぶっ壊して少々お仕置きをしてやろう。

 だが俺の予想に反してさくらに追いつくことはできなかった。背中のロボットアームを駆使して、さくらは樹上を自在に移動し俺の追跡から逃れ続けた。おまけにロボットアームの先端にある砲塔からは定期的に俺めがけてこやしボールなる凶悪兵器が打ち込まれてくる。悪臭のせいでまともに呼吸することすらできない。

 俺は涙目になりながら近くにあった原付バイクほどの小岩を持ち上げると、


「これでも喰らえ!」

 

 さくら目掛けて投げ込んだ。

 

「きゃあああ!」

 

 小岩はさくら本人に直撃こそしなかったものの、ロボットアームの一本へと命中した。小岩は二つに割れたが、直撃を受けたロボットアームは大きく曲がった。たぶん壊れたな。


「ちょっとぉ! 大牙さんなんてことしてくれたんですか! このロボットアームは機関の知り合いから性能テストを頼まれている大事な実験品なんですよ!」

「そりゃあ悪かったな。お前にぶつけるつもりだったんだ。次はしっかり当てっから!」


 そう言って俺は再びその辺に落ちていた小岩や小石を弾丸のようなスピードでさくら目掛けて投擲していった。

 

「なめないでくださいよ!」


 さくらが吠える。流石はMS機関が作ったロボットアームだ。俺の投げた石や岩を三本のアームが正確に払いのけている。俺の残弾が尽きたのを見計らいロボットアームはそれぞれの先端から再び砲塔のようなパーツを飛び出させ、俺目掛けて何かを打ち込んできた。

 俺の前方へと打ち込まれたその何かは着弾と同時にもうもうと白い煙を周囲へと噴出し始めた。煙幕か。

 視界が白く染められていく中、俺は足を止めざるを得なかった。

 さくらは何としても俺を接近させないつもりらしい。近接戦になれば俺が勝つのは明白だからな。このままある程度の距離を空けながら遠巻きに攻撃してくるつもりか。俺は耳へと神経を集中させたが、ロボットアームは本当に優秀らしく作動音や樹上を動く音を聞き取れることは叶わなかった。

 そうなると匂いだなーー。

 俺がさくらの匂いを辿ろうと深呼吸をしたそのとき。

 ぽんぽんっ、という小さな音と共に例のこやしボールが5個ほど俺の体へとぶつかった。

 割れるこやしボール。そこから悪臭が立ち込めるのと俺が息を吸うのはほぼ同時だった。鼻腔を侵していく臭気。その刺激は俺の脳へとしっかり送られ、


「ぐああああああああああああああああああっ!!」

 

 臭い。臭すぎるっ!

 もう涙も絶叫も我慢できない。俺は再び吐き気に襲われ地面へとうずくまった。嗚咽を漏らしながら荒く呼吸を繰り返す。

 

「ふっ」


 不意に俺は笑いが込み上げてきた。心臓が高鳴り、全身が熱くなる。ぷるぷると腕が震え拳は強く握り締めた。


「あははははははっ」


 俺は高笑いをし終えると、


「上等だぁあの女ぁ! ぶっ潰してやる!」


 天へと吠え、近くにあった巨木を両手で鷲掴むと、一気に地面から引っこ抜いた。槍投げの要領で巨木を構えた俺はこやしボールが飛んできた方向へと当てずっぽうにぶん投げた。

 ぶうんっという風を切る音を奏でながら飛んで行った巨木。少ししてから轟音と木々がなぎ倒される音が樹海へと響く。


「きゃああああ!」


 続いて聞こえてきたのは聞き覚えのある悲鳴。俺はにやりと笑うと両脚へと力を込め、一気にトップスピードまで加速し悲鳴の元へと走り始めた。

 煙幕を抜けた先には粉々になった巨木と木々に加えて地面へと尻餅をつくさくらがいた。

 俺に気づいたさくらはロボットアームを操作し、三本のアームが俺へと迫る。アームの先端にはスタンガンのような器具がばちばちと電気を流していた。俺はアームの攻撃を捌ききり、一本を破壊し、もう2本のアームの動きを腕力で封じた。


「さくらちゃん、見ぃつけた」


 にやりと笑う俺に対し、さくらは多少引きつった笑顔を見せながら、


「相変わらず無茶苦茶破壊しますね。そんなんだから借金が増えるんですよ」

「あっはっはっ、そうかもな。まぁ、そのことはどうでもいいや。さぁて、楽しいお仕置きタイムだな」

「まだ負けたわけじゃないですよっ!」


 さくらが吠える。するとさくらの背負っている機材から別のアームが飛び出し、俺の顔面へと攻撃してきた。他のアームを抑えていることで俺はガードが間に合わず、もろに顔面へと機械のパンチを受けてしまった。

 衝撃で上体を反らす俺。力が抜け、抑えていたアーム2本を自由にしてしまった。まさか5本アームがあるとは油断したぜ。

 距離をとったさくらはアームの先端から砲塔を再び出現させた。そしてそこから飛び出してきたのはこやしボールではなく黒い球だった。

 その正体を察し、俺は両腕で顔面をガードした。そして黒い球は爆発した。

 どーん、という音ともに俺は後方へと吹っ飛ばされる。小さな手榴弾だったが、距離が近すぎた。俺はくるりと一回転し背中を地面へとしこたま打ち付けた。


「さくら! てめぇ手榴弾なんて使うんじゃねぇぞ。殺す気か!」

「‥‥‥ちっ、表面の毛が焦げた程度ですか。相変わらず頑丈ですね」

「キレてやがるなこの女。俺じゃなかったら死んでたぞ」

「大牙さんとやり合うのに手榴弾使うのを躊躇ってたら負けてしまいます」

「もう加減しねぇ。そのアームを全部引っこ抜いて主従関係を叩き込んでやるよ、このちんちくりんが‼」

「毛皮剥いでカーペットにして一生踏んであげますよ、脳筋狼‼」


 さくらが再び手榴弾と煙幕を俺へと撃ち込む。爆風に押された俺だったがすぐに立ち上がると、巨木を引っこ抜きハンマーのようにさくらへと振り上げた。

 手榴弾が爆ぜる音に、巨木が投げられ爆砕する音。

 鳥たちが喧しく泣きながら空へと飛び逃げていく。

 地面が揺れ、獣たちが一斉に走り去って行った。

 悪臭と白い煙、そして土煙に覆われたその一帯での騒ぎは俺とさくらの両方が疲れ果てるまで続いた。

 ふと冷静になった頭で、


「「懸賞金山分けで良くね?」」


 とお互いに意見が一致することでこの不毛な争いは収束したのだった。

 樹海の一帯はひどい有様と化していた。俺が木々を引っこ抜き、さくらが地面を爆砕させたおかげで穴ぼことなっている。木がなくなったのでその辺りだけ直射日光が降り注ぎ明るくなっていた。

 冷静になった俺たちは火のついた木々の消化活動を済ませると、


「何してたんだ俺ら?」

「さぁ? きっと魔が差したんですよ」


 地面に座り、自分たちが作り出した無残な光景を惚けた表情で眺めた。

 

「これって環境破壊だよな? 何か罰則とかあるのか?」

「どうでしょうね。でも懸賞金で何とかなるんじゃないです?」

「そうだな。とりあえず捜索を続けるか。一緒にやろうぜ」

「いいですよ。でも大牙さん、臭いんで離れてくださいね」

「‥‥‥もう文句言う気力もねぇよ」

「と言うかさっき大牙さん手がかりを見つけたんじゃないですっけ?」

「お前のせいで匂いが辿れなくなった。そういうお前は何か見つけてないのか? どうせ妙ちくりんな機械で調べていたんだろ?」

「この辺りで僅かですけど金属探知機が反応したんです。それくらいしか分からな‥‥‥」

 

 さくらが話を止め、樹海の一点へと視線を向けて止まった。

 俺も釣られてさくらの視線を追ってみる。すると俺たちが暴れてほじくり返された地面から何かが飛び出ていた。近づいて見てみると金属製の扉のようなものが地面から生えている。潜水艦のハッチを思わせる円形の扉だった。

 俺とさくらは互いに顔を合わせ小さく頷く。俺は扉へと手を伸ばしたが、意外なことに鍵は掛かっておらず呆気なく開いた。

 扉の先には地下へと続くはしごがある。深さにして十メートルほどだろうか。多少狭いが俺でも入れそうだ。俺が先に入り、さくらが続いた。途中で罠があるわけでもなく、するすると降下していくことができた。

 地下にたどり着くとそこには別の扉があった。俺が扉を開けると、その先には一つの部屋。そして、


「あれぇ? お客さんか? いらっしゃい」


 1人の男が飄々とした態度で鎮座していた。

 

次話は16:00ごろに投稿します

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