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狼獣人になったが、俺以外の連中がまともじゃない  作者: 双六
セカンドライフ ー異世界転生?ー
16/33

セカンドライフ(3/4)

 村のギルドへと登録を済ましたルシファーが次に案内されたのはとある一軒家だった。案内をしてくれた村民によると、つい最近に前任の冒険者が旅立ってしまい空き家となっているらしい。室内は村民によって日々清掃されているらしく、空き家とは思えないほど外装が綺麗だ。


「あんたが助けたあの娘は村長の孫娘なんだよ。この一軒家を無料で提供することを決めたようだから、好きに使ってくれていいよ」

「本当⁉︎ 嬉しいな。これで親の目を気にせずゲームや動画もやりたい放題見放題じゃん!」


 村民からの説明を受け、ルシファーは嬉しそうに玄関の戸を開けた。

 早速自宅の中を物色するルシファーは、とある一室で様々な武器や装備が整えられていることに気がついた。これも前任の冒険者が使っていたものだそうだが、村民によると自由に使っていいとのことだった。


「うーん、でも流石に人が使ったものは嫌だな。どうせなら新品がいいよ」

「そうかい。前任冒険者は綺麗な女性だったけど、男女共用装備だから問題なく使えると思うけどなぁ」

「女性が使ってた⁉︎ それを早く言ってよ! 使う使う! 使いますとも! げへへ」


 そんなやりとりを終えたルシファーの元へ、助けた少女が訪ねて来た。助けてくれたお礼に村を案内させて欲しいという少女の提案に、ルシファーは即答で同意したのだった。

 少女の名前はチェリーとらしい。ルシファーはチェリーと共に村の中を回っては一緒に紅茶を飲んだりと楽しんだ。時々鼻腔をくすぐるチェリーの甘い香り。上目遣いで話しかけてくるその潤んだ瞳。ふわりとした髪とそれに馴染んだ柔らかくも可愛い笑み。ルシファーは何度も何度もだらしなく顔を緩ませた。

 一通り村の施設を案内されたルシファーは、最後に少女の実家ーーつまりは村長の家へと招かれた。

 白髪頭の村長は孫娘を助けたルシファーを讃える言葉を何度も口にした。ルシファーは大したことはしていないと謙遜してみたがニヤケ顔を誤魔化すことは出来ておらず、内心の嬉しさが表情にダダ漏れであった。


「さて、ルシファーとやら。今この村は恐ろしい魔物の襲撃に怯える日々を過ごしている。説明は不要だな。今朝方チェリーを襲った狼獣人だ。何度も若い衆が討伐しようと武器を手に奴へ挑んだが、誰一人として生還しておらん。しかし、君は単独で互角に渡り合ったというではないか。ルシファーよ。村長として君に狼獣人の討伐を依頼したい」


 昼食を取るルシファーへと村長が懇願した。ルシファーは今朝の戦闘を思い出しながら表情を強張らせた。


「で、でも。僕は初心者っていうか、まだ転生して間もないっていうか、自信ないなぁ」

「何を言っているのかね。チェリーから聞いたよ。奴の攻撃を全て華麗に躱し、その上で斬撃を何発も当てたそうじゃないか。初心者? いやいや、たとえそうであっても君には才能がある。きっとあの狼獣人を倒せるに違いない」

「才能ってたぶんスキルのことだけど‥‥‥あれ? そう言えばスキルって三つ選ばなかったっけ? 何でさっきは二つしか使えなかったんだ?」


 ルシファーの疑問を察したかのように、突然彼の視界へと文字が浮かんだ。


『スキルが解放されました』

 スキル名

『デスガイド』

 効果:あらゆる生物、物体を殺す、もしくは破壊する。

    効果を発動するには対象物を5秒間見つめる必要がある。


 ルシファーは表示されたスキルの内容を読むと、


「村長! 僕にお任せください! 必ずあの狼獣人を始末して差し上げますよ」


 威勢良く立ち上がり、そう言い切ったのだった。




「はぁ。疲れた」

 

 ルシファーが一軒家で昼寝をしている間。

 村から少し離れた場所に停車しているトラックの荷台にて、木下さくらは村娘の格好のまま椅子へと腰掛けていた。


「お疲れ様だ、さくら。頑張っているな」

「本当ですよ、ティーブレイクさん。ルシファーの奴、ずっと私の体をジロジロ見ているんですよ! 正直それだけで滅茶苦茶気持ち悪いって言うのに、村長邸を出てからも一緒にいようするんです。あああ、もう嫌だなぁ」


 さくらはティーブレイクから受け取ったお茶をがぶ飲みしてみせた。さきほどまで『純粋で可愛らいい村娘』を演じていた姿とは違い、飲み干して息を吐く様はおっさんのようだった。


「それにしてもお前があそこまで愛想を振りまけるとは知らなかったぜ、チェリーちゃん?」

「うっさいなぁ。だいたい大牙さんが悪いんですよ。台本と全然違うことしてくるし」

「ああ? 台本通りの完璧な演技をしたつもりだぜ?」

「あれですよ。服を破るシーン」

「ん? 台本には『悪の狼獣人が少女を襲おうと服を破る』ってしっかり書いてあったろ?」

「だからってやり過ぎですよ。ブラまで剥ぎ取るとか本物の鬼畜ですよ。このエロ狼!」

「うるせぇな。なんか思ったより破けちまったんだよ」

「うそだぁ! 絶対私のおっぱい見ようとして必要以上に力入れたんだぁ‼︎ ティーブレイクさん、このエロ狼何とかしちゃってくださいよ」

「おいおいおいおい。不可抗力だっての。ティーブレイク、何とか言ってくれよ」


 俺とさくらに問いかけられたティーブレイクだったが、本人は俺たちのやりとりなど興味がなさそうだった。モニターへとすでに視線を戻しており、優雅に紅茶を啜っている。

 不毛な言い合いを終え、俺たちは今後について簡単に打ち合わせをすることとなった。

 

「取り敢えず日没までは休憩だな。日が沈んだ後に大牙には村を襲撃してもらう。そこをルシファーに討ち取らせて『狼獣人編』は攻略ということにしよう。分かっているな大牙。うまく負けるんだぞ」

「三つ目のスキルで俺を倒すってわけだろ。へいへい、分かったって。それにしても‥‥‥‥‥‥なんとも都合のいいスキルだよな。初っ端からこんな強力なスキルなんてあったら面白くないだろ」

「物語ならそうなのだろうが、この実験ではまず『成功体験』をしっかりと味わってもらう必要がある。それによって自身の行動や能力に自信を持たせ、人格の矯正に向かわせるのだよ。そもそもルシファー君がまともに戦えるとは思えない。君に致命傷を負わせるだけの腕力も技術もない。多少強引でご都合主義な展開だが、こういうスキルというのは便利だ」

「まぁ、理解できなくはないな。で? その後ルシファーはどうするんだ? 冒険にでも出すのか?」

「いや、それは舞台の広さや役者の数の都合上不可能だ。よって彼には村の内部での揉め事やトラブル解決にあたってもらうことになるな。そうやって共同体の中で役目を果たす事で引きこもりやニートの症状を緩和させることができれば実験は成功だ」


 ティーブレイクがモニター画面を切り替えた。そこにはいくつもの分岐点と共にこの先の展開が樹形図として書かれている。ティーブレイクによるとシナリオライターに書かせたものらしい。無駄に手が込んでいる。


「あのぉ、ティーブレイクさん。私は‥‥‥」

「さくらか? もちろん『チェリーちゃん』としてルシファー君のやる気を引き出してくれ。どうやら彼は君に夢中のようだからな。上手く調子に乗せてやってくれ。ただ身の危険を感じたら殺さない程度に痛めつけてくれて問題ない」

「うぅ、分かりました」


 

 その日の夕方。

 台本通り、俺は村を襲撃した。家々を破壊し、人々を恐怖に染め上げた。

 数分ほど暴れていると、俺の背後からルシファーの奴が現れた。若干顔が引きつっているようだが、隣にいる『チェリーちゃん』に上目遣いで何かを語られると、とたんに凛々しい表情をしてみせた。単純な野郎だ。


「あっははははは! 出やがったな人間。今朝はよくも俺のお楽しみを邪魔しやがったな。ただじゃあ殺さなぇ。嬲り殺してやるよ」


 できるだけ凄みを感じさせるように俺は低く、唸るように台本通りのセリフを吐く。一歩ずつゆっくりと近く俺に対し、ルシファーは背中の双剣を取り出し構えた。一見すれば双剣で戦闘するようにも見える姿だ。もっとも俺の耳に隠されたイヤホンには観測機から送られてくるルシファーの脳波情報が送られている。それによるとすでに『スローモーション』のスキルを使うつもりでいるようだった。

 俺が走り始めると同時に奴はスキルを発動させた。ルシファーの視界は近眼になったかのように周囲がぼやけて見えているはずだ。俺は自分の動きをスローにしてみる。

 すかさずルシファーは『デスガイド』のスキルを発動させた。スキルの発動カウントが俺の耳へと流れ出す。5‥‥‥4‥‥‥3‥‥‥‥2‥‥‥1‥‥‥‥。

 俺は喉元をかきむしり苦しむ演技を始めた。全身を細かく震わせ、その場にうつ伏せで倒れた。俺は心臓の鼓動を生存できるギリギリのレベルまで落とし、体温を下げると仮死状態へと入る。

 あまりにもあっけない狼獣人の最期であったが、村中から歓声が湧き上がった。


「すごい! すごいですルシファー様!」


 薄眼を開けて俺は周囲を確認した。さくらが扮する『チェリーちゃん』が大げさに驚いてみせる。ぴょこぴょこと自分の周りを飛び跳ねるチェリーにルシファーはご満悦といった表情だ。

 まぁ、何はともあれこれで俺の役割は終わりだ。ようやくこの茶番から抜けられると安堵している俺へとチェリーが近づいてきた。

 何だ何だ? 台本にはない行動だぞ。チェリーの両手には水の入ったバケツが握られている。こんなことは台本に書かれていない。

 俺が不審に思っていると、チェリーはルシファーへと笑顔で説明した。


「たぶんまだ魔物特有の汚れがあると思うので、この聖水で清めておきますね」


 そう説明するのと同時にチェリーは運んできたバケツをひっくり返し、水を俺へとぶっかけてきた。とんでもなく冷たい水だ。寒さには強い俺だが、それでもキツいと感じるほどの冷気が全身を襲う。


「おやぁ。まだ汚れが落ちませんねぇ。もっともっとぶっかけないとダメですねぇ!」


 ルシファーに見えないようにチェリーが嗜虐的な笑みを浮かべながら再び俺へと冷水をぶっかけやがった。

 ‥‥‥この野郎、今朝の仕返しのつもりかよ!

 死んだふりで動けない俺に対し、実に十五回もチェリーは冷水を浴びせたのだった。


次話は11/23に投稿する予定です

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