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水竜を余所へ移してからというもの、レティシアは見世物小屋に閉じ込められた気分だった。
魔法省には噂を聞きつけた人々が次々と押しかけ、彼女を一目見ようとやって来る。
誰もが席に座るレティシアに見入り、その後ろに立つヴィクトールの強面を見て「ひっ」と悲鳴を上げた。
レティシアがマスクと眼鏡をかけていた理由を口にすることはなく、周囲もまた尋ねようとはしなかった。興味本位で聞きかけた者もいたが、ヴィクトールの圧に負けて言葉を飲み込んだ。
魔法省での一日が終わると、ヴィクトールはレティシアを肩に担いで屋敷へ戻った。
案内されたのは彼女のために用意した客間ではなく、ヴィクトール自身の寝室だった。彼はレティシアの両足に魔法を制限する足環が嵌めると、鎖で寝台に繋いだ。
かちゃり、と無慈悲な音がする。
「もー、そろそろこれやめて。勝手なことしないようにするから、外して!」
レティシアは頬をぷくりと膨らませ、不満を隠そうともせずに抗議した。
拘束されていることそのものも気に入らないが、それ以上に、自分の言葉をまるで信用されていないことが癪だった。
身じろぎするたび、足環と鎖がかすかな音を立てる。
アルンスト時代の魔力抑制器具は、現在流通しているものとは比較にならないほど高性能だ。強大な魔力でさえ抑え込むその能力は、当時の技術水準の高さを物語っている。
見た目は無骨で重そうだが、実際の重量はさほどない。失われた技術によって作られた器具には、アルンスト時代の栄華の名残が色濃く刻まれていた。
「信じない」
断言すると、ヴィクトールは寝台の脇に置かれたソファへ腰を下ろした。
「なっ……ひどくない!? ちゃんと反省してるって言ってるじゃん!」
「前にも似たような言葉を聞いた覚えがある」
「うっ……で、でも今回は、本当の本当に!」
必死に取り繕うように訴えるが、ヴィクトールの視線は微塵も揺らがない。
経験が物を言っている。彼女の言葉に説得力などない。
(本気で怒ってる)
レティシアはふいと視線を逸らし、聞こえるか聞こえないかほどの小さな声で舌打ちをした。
ヴィクトールのこめかみに青筋が浮かぶ。
「今、舌打ちしたな?」
レティシアは肩をびくりと震わせると、ものすごい勢いで首を横に振った。
「してない、してない」
「しただろう。はっきり聞こえたぞ」
「気のせいだってば。空耳、空耳」
へらりと笑ってごまかそうとするが、泳ぎまくっている視線がすべてを物語っていた。隠し事をしている子供そのものである。
「小鼻がぴくぴくしてる」
言われてレティシアは両手で鼻と口を覆い隠した。
「いや、なんのことかな!」
「怪しい」
「理不尽!」
レティシアはついに天を仰ぎ、大げさなほどのため息を吐いた。
「人を信用する心がないね、ヴィル。もっと心を広く持たなきゃ」
レティシアが呆れたように言う。
だが、その言葉に返ってきたのは、ほんの一拍の間もない鋭い一言だった。
「お前が言うな」
容赦のない反撃に、レティシアはぴたりと口を閉ざす。
(言い返したい。ものすごく、反論したい……!)
だが、これまで自分が積み重ねてきた数々の失敗を思い返せば、強気に出られるはずもない。
レティシアは唇をへの字に曲げ、黙った。
そんな彼女の反応を見て、ヴィクトールが目を細める。
「……許してほしいか?」
不意に投げかけられた言葉に、レティシアはぴくりと肩を震わせた。
「おっと。そういうのがあるんじゃない。何? 言ってみて」
レティシアは胸の前で腕を組んだ。
「できる限りのことはするから」
その言葉を聞いたヴィクトールの口元が吊り上がった。
(……あれ?)
まるで獲物が自分から罠に飛び込んできたとでも言いたげな顔をしている。
レティシアの背筋を冷たいものが走った。
(もしかして、今わたし、余計なこと口走った?)
そう思った時にはもう遅かった。
「言ったな?」
ぞくり、と背筋が震えた。
嫌な予感がする。
とてつもなく、嫌な予感が。




