第9話 銀色の記憶
翌朝。
ユニとロッタは森を抜けようとしていた。
「昨日の夜、変な夢を見たんだ」
ロッタが言う。
「夢?」
「うん。銀色の髪の人が出てきた」
ユニは首を傾げる。
「どんな人?」
「分からない。顔は見えなかった」
ロッタは胸元のペンダントを握った。
「でも……僕の名前を呼んでた」
「ロッタの名前を?」
「うん」
「家族かもしれないね!」
「そうだったらいいんだけど……」
そのとき――。
森の向こうから声が響いた。
「そこにいるのは分かっている!」
ユニの顔がこわばる。
「追いつかれた……!」
木々の間から、王城の魔法使いたちが姿を現した。
そして、その後ろから白髭の老人がゆっくり歩いてくる。
「見つけたぞ」
「ユニ、こっち!」
ロッタがユニの手を引く。
しかし――。
魔法使いたちが道を塞いだ。
「逃げる必要はない。王城まで来てもらうだけだ」
「嫌です!」
ユニが答える。
「私は悪いことしてない!」
「それは分かっている」
老人が口を開いた。
「だからこそ、君には話を聞きたい」
「……え?」
老人はユニを見た。
「君の魔力は、この世界のものとは違う」
そして次に、ロッタを見る。
「だが……」
老人の目が細くなる。
「問題は君のほうだ」
「僕?」
ロッタが戸惑う。
「そのペンダントを見せてもらえんか?」
「嫌です」
ロッタはペンダントを握りしめた。
「これは僕の大切なものです」
「そうか……」
老人は無理に近づこうとはしなかった。
「ならば、もう一つ聞こう」
「何を?」
「君は、危険が迫ったとき……自分が自分ではなくなることはないか?」
ロッタの顔が変わった。
「……!」
ユニがロッタを見る。
「ロッタ?」
「知らない」
「本当に?」
「……知らない」
しかし、老人は確信に近づいていた。
「やはり……」
そのとき、魔法使いの一人が突然杖を構えた。
「賢者様、もう時間がありません!」
「待て!」
老人が叫ぶ。
だが――。
魔法が放たれた。
ユニへ向かう。
「ユニ!」
ロッタが飛び出した。
ドォン!!
地面が大きく揺れた。
土煙が舞う。
「ロッタ!」
ユニが叫ぶ。
煙の中から、ゆっくりと少年が立ち上がる。
「……」
ロッタの髪が――
黒から、少しずつ銀色へ変わっていく。
「え……?」
ユニが息を呑む。
ロッタの瞳から、いつもの優しさが消えた。
鋭い目。
冷たい表情。
「……ユニに」
低い声。
「触るな」
周囲の魔法使いたちが凍りついた。
「な、なんだ……この魔力……!」
老人だけは、震えながらロッタを見ていた。
「間違いない……」
銀色の髪。
異常な魔力。
そして、かつて歴史から消えた一族。
老人が呟く。
「銀の一族……」
ロッタの身体から、凄まじい魔力が溢れ出す。
ユニはただ立ち尽くしていた。
「ロッタ……?」
しかし――。
銀色のロッタはユニを見ると、一瞬だけ表情を揺らした。
まるで、
ユニの声だけが届いている
かのように。
そしてロッタは、静かに言った。
「……逃げろ」
「え?」
「僕から……離れて」
その言葉と同時に、銀色の魔力が森を包み込んだ。
老人は確信した。
この少年は、ただの孤児ではない。
そして――。
その秘密を知るためには、ユニの旅そのものを追わなければならない。




