第8話 追ってくる魔力
村を出て、さらに数日。
ユニとロッタは、知らない道を歩いていた。
「今日はどこまで行くの?」
「大きな町があるらしいよ」
「大きな町!」
ユニの目が輝く。
「どんなところかな?」
「僕も行ったことないから分からない」
「じゃあ楽しみ!」
二人は笑いながら歩いていた。
――その頃。
二人のはるか後方。
王城から派遣された魔法使いたちが、森を進んでいた。
先頭にいるのは、白い髭を生やした一人の老人。
王城でも有名な賢者だった。
ただし――。
「おお……!」
老人は魔力を測定する水晶を眺めて、目を輝かせている。
「素晴らしい……! なんという魔力反応!」
「賢者様、遊んでいる場合ではありません」
「遊んでおらん!」
「その顔、完全に楽しんでいますよ」
「魔力観測は研究じゃ!」
老人は水晶を覗き込む。
そこには二つの光があった。
一つは――青。
ユニの魔力。
そしてもう一つは――。
「……?」
老人の表情が変わった。
「妙だ」
「何か?」
「少女の魔力とは別に、もう一つ反応がある」
「同行者の少年でしょう」
「そうだろうな」
老人は水晶を回す。
すると、一瞬だけ。
青い光の隣に、銀色の光が浮かんだ。
「……銀?」
「何か問題でも?」
「いや……」
老人は首を振った。
「まだ分からん」
一方、ユニたち。
「ロッタ」
「ん?」
「さっきから何か聞こえない?」
「何が?」
ユニが後ろを振り返る。
「誰か……追いかけてきてるような」
ロッタも振り返る。
誰もいない。
「気のせいじゃない?」
「そうかな……」
ユニは少し不安そうだった。
すると突然――。
ロッタの胸元のペンダントが、
カチッ
と小さな音を立てた。
「……?」
ロッタがペンダントを握る。
「まただ」
「何が?」
「このペンダント。街を出てから、ときどき変なんだ」
「光るの?」
「うん」
ユニが興味津々で近づく。
「見せて!」
ロッタがペンダントを手に乗せる。
青い石。
古びているのに、不思議なほど綺麗だ。
「きっと大切なものなんだね」
「僕が持っていたのは、これだけだから」
ロッタは少し寂しそうに笑った。
「だから、絶対に家族を見つけたい」
「うん!」
ユニは力強く頷く。
「一緒に探そう!」
「……ありがとう」
その瞬間――。
ペンダントが、
淡く銀色に光った。
「え?」
二人が顔を見合わせる。
「今、光ったよね?」
「うん……」
しかし、すぐに消えた。
「なんだったんだろう?」
二人には分からない。
夜。
二人は森の中で休んでいた。
焚き火の向こうで、ユニは眠っている。
ロッタも横になろうとした。
そのとき――。
遠くから、魔力の気配。
「……」
ロッタが目を開ける。
誰かがいる。
昼間より近い。
森の奥。
小さな光が見えた。
「……誰だ?」
ロッタは立ち上がる。
しかし、その瞬間――。
胸元のペンダントが熱くなった。
「……っ」
ロッタは胸を押さえる。
なぜか胸の奥がざわつく。
そして一瞬。
頭の中に、知らない光景が浮かんだ。
――銀色の髪。
――燃えるような魔力。
――誰かの声。
「ロッタ……逃げなさい」
「……!」
ロッタは息を呑んだ。
「今の……誰?」
次の瞬間、映像は消えた。
眠っていたユニが寝返りを打つ。
「……ロッタ?」
「!」
ロッタは慌てて振り返った。
「ごめん。起こした?」
「ううん……」
ユニは眠そうに目をこする。
「怖い夢?」
「……分からない」
ロッタはもう一度、森を見る。
そこには誰もいない。
けれど――。
遠くでは確かに、王城の魔法使いたちが二人を追っていた。
そして彼らの中にいる老人は、水晶に映った小さな銀色の光を見ていた。
「……おかしい」
老人は呟く。
「少女だけを追っているはずなのに……」
水晶の中で、銀色の光が一瞬だけ強くなる。
老人の顔から笑みが消えた。
「まさか……」
その言葉の続きを、老人は口にしなかった。
まだ確信がない。
しかし、長い年月を魔力研究に費やしてきた彼だけには分かり始めていた。
この旅には、もう一つの秘密が
隠されている。
そしてその秘密は――
ユニではなく、ロッタにあるのかもしれなかった。




