第34話 前世の記憶――三人は、ずっと昔から出会っていた
湖の水面に浮かんだ――
8:08
その数字を見た瞬間。
ユニの頭の奥で、何かが弾けた。
「……痛い」
「ユニ!?」
ロッタが駆け寄る。
けれどユニは、ロッタの姿を見た瞬間――
知らないはずの名前を口にした。
「……シル?」
「え?」
ロッタが固まる。
「今、僕のこと……?」
ユニ自身も驚いている。
「分からない……でも、前にも呼んだ気がする」
その瞬間――
ロッタのペンダントが強く輝いた。
キィィィン――!
そして、ロッタの頭の中にも映像が流れ込んできた。
◆ ロッタの前世
そこは、今よりはるか昔。
海と陸の境界にある古代の世界。
一人の少年が立っていた。
銀色の髪。
今のロッタと同じ顔。
その少年の名は――
シルヴァ。
銀の一族の最後の守り手だった。
「ユニ!」
海から、一人の少女が駆けてくる。
青い髪。
人魚の姿。
その少女は――
今のユニと同じ笑顔をしていた。
「また勝手に境界まで来たの?」
「だってシルがいるから!」
「危ないんだよ」
「シルが守ってくれるでしょう?」
「……それはそうだけど」
シルヴァは困ったように笑う。
二人は幼い頃から一緒だった。
そして、もう一人。
◆ レオンの前世
少し離れた場所で、本を読んでいる少年。
金色の瞳。
黒い髪。
その少年の名は――
レオンハルト。
今のレオンと同じ魂だった。
彼は三人の中で唯一、魔法を使っていた。
「また二人で遊んでいるのか」
「レオン!」
人魚の少女が笑う。
「こっち来て!」
「僕は忙しい」
「嘘。ずっと本読んでるだけじゃない」
「……」
レオンハルトは本を閉じた。
「君たちが危なっかしいから、仕方なく見張っているだけだ」
シルヴァが笑う。
「素直じゃないな」
「うるさい」
三人は――
昔から一緒だった。
◆ そして、あの日
三人が暮らしていた世界には、
**海と陸をつなぐ「境界の門」**があった。
その門を守るのが、銀の一族。
海の力を受け継ぐのが、人魚の一族。
そして境界の魔法を研究するのが、魔法使いの一族。
三人はそれぞれ違う立場だった。
それでも――
親友だった。
ところがある日。
境界の門が暴走した。
「ユニ!」
シルヴァが叫ぶ。
「門が開きすぎている!」
レオンハルトが魔法陣を展開する。
「このままでは二つの世界が混ざる!」
少女ユニが叫ぶ。
「どうすればいいの!?」
レオンハルトが答える。
「三人の力を合わせる!」
青。
銀。
金。
三つの魔力が重なる。
しかし――
足りなかった。
「閉じない!」
「そんな……!」
門の向こうから、巨大な何かが現れる。
シルヴァが剣を構える。
「二人とも下がれ!」
「シル!」
「僕が時間を稼ぐ!」
「ダメ!」
ユニが泣きながら叫ぶ。
そのときレオンハルトが言った。
「違う」
二人が振り返る。
「この門を閉じるには――」
レオンハルトは理解した。
「誰かが境界の向こう側に残らなければならない」
「……!」
三人は黙った。
そして――
ユニが一歩前へ出た。
「じゃあ私が――」
「ダメ!」
シルヴァがユニを抱きしめる。
「絶対にダメだ!」
レオンハルトも叫ぶ。
「君を犠牲にはしない!」
だが時間がない。
境界が崩れていく。
そのとき、三人は決めた。
いつか必ず生まれ変わって、もう一度出会う。
「次は――」
ユニが泣きながら笑う。
「普通に旅をしよう」
シルヴァも笑った。
「うん」
レオンハルトも頷く。
「三人で」
そして三人は、それぞれの力を使って境界を封じた。
◆ 現代
「……!」
ロッタが目を開ける。
「今の……夢?」
ユニも涙を流している。
「私も……見た」
レオンも頭を押さえる。
「僕も……」
三人は顔を見合わせた。
賢者とマリは呆然としている。
「まさか……」
賢者が震える。
「三人とも、前世の記憶を……」
レオンが呟く。
「僕たちは……昔から知り合いだった」
ロッタが自分の銀髪を見る。
「だから僕は、ユニを守ろうとしたのか……」
ユニはロッタの手を握る。
「だから初めて会ったとき……」
「懐かしかったんだ」
二人は静かに笑った。
そしてレオンが突然――
「待って」
「どうした?」
レオンの顔が険しくなる。
「前世の僕たちは、三人で境界を閉じた」
「うん」
「なのに……」
レオンは湖に浮かぶ8:08を見る。
「どうして今、また境界が開こうとしている?」
沈黙。
その答えは――
湖の向こうから現れた人物が知っていた。
「それは――」
全員が振り返る。
そこに立っていたのは、
前世のユニとそっくりな女性。
ただし――
彼女には、人魚の尾びれがなかった。
「あなたたちが、前世で閉じたものが……」
女性は静かに笑う。
「まだ、眠っていないからよ」
ユニが息を呑む。
「あなた……誰?」
女性はユニを見つめる。
そして――
「私は、あなたの前世を知っている」
「そして……」
女性はロッタとレオンを見る。
「あなたたち二人の前世もね」
三人の再会は、偶然ではなかった。
三つの魂は、もう一度同じ場所へ集められていた。




