第3話 新しい兄弟と、突然の尾びれ!?
「やっぱり、靴が必要だよ」
ロッタはユニの足元を見た。
裸足で歩くたびに、ユニは小さく顔をしかめている。
「でも、お金は?」
「……あるよ」
ロッタはポケットを探った。
今日は孤児院から頼まれていた大事なおつかいがあった。
みんなの夕飯を買うためのお金だ。
――けれど。
「これなら、買える」
ロッタは靴屋へ入った。
「これがいい!」
ユニが指差したのは、海の色によく似た青い靴。
「履いてみて」
「わぁ……!」
ユニは初めて靴を履いた。
一歩。
二歩。
「痛くない!」
嬉しくて、その場でくるくる回る。
「ロッタ! すごい!」
「よかったね」
ロッタは笑った。
……そして、ふと気づく。
「夕飯のお金……」
財布を見る。
「……まあ、なんとかなる!」
このときロッタは、重大な勘違いをしていた。
――ユニは、家のない子なのだ。
海から一人でやってきた。
身寄りもない。
何も持っていない。
だからきっと、自分と同じ「孤児」なのだと。
「ユニ」
「なに?」
「今日から僕たちのところに来ない?」
「僕たち?」
「孤児院だよ」
「孤児院?」
「うん。泊まる場所がないんでしょ?」
「……ない」
「じゃあ決まり」
ロッタはユニの手を取った。
「帰ろう」
「うん!」
ユニは何も分からないまま、ついていった。
「ただいまー!」
孤児院の扉が開く。
「おかえり、ロッタ!」
子どもたちが一斉に集まってくる。
そして――。
「……誰?」
ロッタの隣にいるユニを見て、全員が目を丸くした。
ロッタは堂々と言った。
「新しい仲間」
「えっ!?」
「今日から一緒に暮らすんだ」
「新しい兄弟!?」
「女の子だ!」
「名前は?」
質問が一気に飛んでくる。
ユニは目をぱちぱちさせた。
「ユニ……です」
「かわいい!」
「髪、綺麗!」
「海みたい!」
「一緒に遊ぼう!」
ユニはあっという間に子どもたちに囲まれた。
すると、少し年上の女の子がユニの頭を優しく撫でた。
「大丈夫だからね」
「……?」
「知らない場所に一人で来たんでしょう?」
「うん」
「寂しかったよね」
「……」
ユニは少し考えた。
「……うん」
海を思い出す。
美しい珊瑚。
魚たち。
自分のいた場所。
少しだけ胸がきゅっとした。
すると――。
「もう一人じゃないよ!」
「そうそう!」
「ここがユニのお家!」
「私たちが兄弟!」
「……兄弟?」
ユニの目が丸くなる。
そして、ふわっと笑った。
「家族……?」
「そう!」
「……嬉しい」
孤児院は大騒ぎになった。
「ユニの部屋、できたよ!」
「えっ!?」
案内された部屋には――。
小さなベッド。
枕。
毛布。
机。
窓。
「…………」
ユニは固まった。
「これ……私の?」
「そうだよ!」
ユニはベッドに近づく。
そっと手を置く。
ふわっ。
「柔らかい……!」
次の瞬間。
ぼふっ!
ユニがベッドに飛び込んだ。
「わああああ!」
ぼよん。
「なにこれ!」
もう一度。
ぼよん!
「すごい!」
子どもたちが笑う。
「ベッドで遊んでる!」
「だって海にはこんなのないんだもん!」
ユニはごろごろ転がる。
「ふわふわ!」
「ユニ、寝るところだよ!」
「知ってる!」
「絶対知らないでしょ!」
孤児院中に笑い声が響いた。
――その夜。
ユニはベッドの上で幸せそうに眠っていた。
初めての靴。
初めての家。
初めての兄弟。
初めてのベッド。
知らない世界なのに――。
「ここ、好きかも……」
ユニは笑った。
そのときだった。
「……ん?」
ユニが目を覚ました。
足が――熱い。
「……あれ?」
布団をめくる。
青い靴を脱いだ足が、淡く光っている。
「なに……これ?」
足先から、光が広がる。
「え?」
ふくらはぎ。
膝。
そして――。
「うそ……」
足がゆっくりと変化していく。
二本の足が一つに重なり――。
青い鱗が現れた。
「えええええ!?」
バサッ!
布団が跳ね上がる。
そこにあったのは――。
人間の二本の足ではなく、
美しく輝く――
人魚の尾びれ。
「足が……!」
ユニは尾びれを持ち上げる。
「戻った!?」
その声に、隣の部屋からロッタが飛び込んできた。
「ユニ! どうした!?」
「ロッタ!」
「……え?」
ロッタは固まった。
ベッドの上。
ユニの下半身には――
巨大な尾びれ。
「…………」
「…………」
二人はしばらく見つめ合った。
そしてユニが叫ぶ。
「足がなくなったーーー!!」
孤児院中に悲鳴が響き渡った。
ユニの「8時間8分」の秘密を知る者は、まだ誰もいない?




