第16話 宿屋のアイドル、ユニ大人気!
翌朝――。
「……なんでこんなに人がいるの?」
宿屋の入口に立ったユニは、目を丸くした。
外には、お客さんの列。
「ユニちゃんに会いに来たんだよ!」
「昨日の子、今日もいる?」
「朝ごはんをあの子に運んでもらいたい!」
ユニは固まった。
「ロッタ……」
「うん」
「私、何かした?」
「笑って、働いただけだよ」
「それだけ?」
「それだけ」
宿屋のおばさんは大笑い。
「昨日のユニちゃんを見て、みんな気に入ったのさ!」
今日のお仕事
「ユニちゃん、まずはシーツ!」
「はい!」
ユニは昨日よりずっと上手になっていた。
バサッ!
シーツを広げる。
ピンッ!
綺麗に整える。
「おお!」
お客さんから拍手が起こる。
「すごい!」
ユニは嬉しくなって、ぺこり。
「ありがとうございます!」
その笑顔に、また拍手。
「もう完全に宿屋の看板娘だね!」
「看板娘……!」
ユニは胸を張った。
「頑張ります!」
朝食のお手伝い
次はパンを配る。
「どうぞ!」
「ありがとう」
「はい!」
「ありがとう、可愛いお嬢ちゃん」
ユニは嬉しそう。
けれど、一人のお客さんが尋ねた。
「ユニちゃんはどこから来たんだい?」
「海です!」
ロッタがすぐ横から、
「遠いところです!」
「海って……?」
「と、とにかく遠いんです!」
ユニは首を傾げる。
「どうしてロッタはいつも海って言うと慌てるの?」
「それは……」
「秘密だから!」
二人は顔を見合わせて笑った。
昼過ぎ。
おばさんが二人に小さな袋を渡した。
「今日のお給料だよ」
「お給料……!」
ユニは両手で受け取る。
昨日より少し重い。
「こんなにもらっていいの?」
「もちろん。二人ともよく働いたからね」
ユニは袋を大切そうに胸元へ抱えた。
「自分で働いて、お金をもらうって……嬉しいね」
ロッタも頷く。
「これなら旅の準備もできる」
「うん!」
その日の夕方。
ユニは宿の裏で洗濯物を干していた。
風が吹く。
洗濯物が揺れる。
「気持ちいい……」
そのとき。
「ユニ様ーーーっ!!」
「え?」
遠くから聞き覚えのある声。
ユニが振り返る。
そこには――
大きな荷物を抱えた、びんぞこ眼鏡の少女。
「マリ……?」
「人魚様!」
マリはユニを見るなり、目を輝かせた。
「会いたかったですーー!」
「ええっ!?」
マリが駆け寄ってくる。
しかし――。
その後ろには王城の騎士たち。
「マリ!」
「また勝手に抜け出したな!」
「嫌です! 私は人魚様に会いに来たんです!」
「連れて帰るぞ!」
「いやーーー!」
マリはユニの手を握る。
「人魚様! 私は必ずまた――」
「マリさん、またね?」
ユニが笑う。
「……はい!」
マリは満面の笑み。
そして騎士に抱えられながら、
「人魚様ーーー!」
と叫びながら連れていかれた。
ロッタは呆然。
「……あの人、また来た」
宿屋のおばさんが笑う。
「ユニちゃん、有名になったねぇ」
ユニは首を傾げる。
「私、そんなに有名なの?」
ロッタが笑った。
「たぶん、普通の宿屋の看板娘の範囲を超えてるよ」
ユニは今日のお給料袋を握りしめる。
「でも……楽しい!」
その夜。
宿屋には、いつもより多くの宿泊客が訪れた。
そしてユニはまだ知らない。
「宿屋のアイドル」という小さな評判が、やがて王都まで届いてしまうことを。




