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第10話 変に思われる

 莉子が学校で周に声をかけたのは朝だけではなかった。それからも、周に声をかけ続けた。休み時間になると、周のところにきて


「授業中に寝てたでしょ。私、全部見たよ」

「それが・・・昨日ちょっと寝れなくて」


 うっ、見てたのか。一番後ろの席だから、誰も見てないと思ったのに。


「藤田くん、さっきの授業でわからないとっこあるんだけど」

「俺もわからないよ」


 七瀬さん、成績が俺より遥かにいいのに、七瀬さんがわからないのを俺がわかるはずないだろ。

 こんなふうにどうでもいいことでずっと声をかけてきた。

 そして、昼休みになった今も。


「その・・・七瀬さん? あの弁当なに」

「私のお昼だよ」

「そうだよね。見ればわかる。俺が言いたいのは、なんで弁当を持ってこっちにきたんだ」

「だって一緒にお昼食べたくて。ダメ?」


 くっ、かわいい。

 莉子が上目使いで頼んできた。その顔で頼まれたら、断れない。


「いやぁ、ダメなわけではないが」

「じゃ一緒に食べよー。ここ座るね」


 莉子は周の机に弁当を置き、前の席に座って後ろを向いた。そして、楽しそうに自分の弁当を開けた。

 そこ、みなとの席だが・・・まあいいっか。


「藤田くんのお昼は? 弁当出さないの?」

「弁当持ってない。適当にパンで済ませるつもり」

「そぉう? パンどこにあるの? どこにもないんだけど」

「もうすぐくるよ」


 それ言ったのと同時に教室のドアが開き、みなとがパンとお茶を抱えて駆け込んできた。


「周ぇ! 焼きそばパン買ってきたぞ!」

「サンキュー」

「腹減った。早くくっ・・・え? なんで七瀬がここに」


 みなとは自分の席に当たり前のように座っている莉子を見て、目をバチくりさせる。


「七瀬、なんで俺の席にいるんだ」

「白石、私ここに座りたいんだけど、座ってもいいかな。藤田くんと一緒にお昼食べたくてね」

「周と? 二人ってそんなに仲良かったっけ」


 みなとは周と莉子を見て首を傾げた。このクラスになってからもう半年くらいだが、この組み合わせは初めてだ。


「頼むよ。白石」


 莉子は両手を合わせ、さっきみたいに上目使いでみなとに頼んだ。みなとは呆然として何度か瞬きをしながら莉子を見つめ、やがて「仕方ないね」と呟きながら小さく頷いた。


「好きなだけどうぞ。俺は他の奴らと一緒に食う。周、俺行くぞ」

「ん? あ、うん」


 みなとらしくなく素直に席を譲って教室を出た。

 七瀬さんの色仕掛けやばい。あのかわいい顔でお願いされたら、「嫌だ」なんて言える人はどれくらいだろう。


「藤田くん、なんでそんな目で見るの」

「別に。学校のアイドルってすごいなって思って」

「うぅ・・・その呼び方やめて。マジ恥ずいから」


 莉子は恥ずかしげに両頬に手を添えた。

 どれだけかわいい人でも「アイドル」なんて呼ばれるのは流石に恥ずかしいのかな。と周は思いながらみなとが買ってきた焼きそばパンをかぶりついた。

 まあ学校のアイドルと一緒にお昼を食べられるのは光栄だが・・・周囲の視線が痛い。

 気にしないようにしようと思っても、どうしても気になってしまう。今、この教室にいる男子全員と、何人かの女子がこっちをチラチラと見つめている。あるやつは目を丸くし、またあるやつは嫉妬の入り混じった視線でこっちを向けている。

 これ、胃が痛くなりそう。

 教室中の注目がこっちに集まっているため、まともに食事をすることすらままならない。周は苦労しながらパンを噛み、無理やり飲み込むと、続けてお茶をごくごくと流し込んだ。

 周の食べる姿をじっと見ていた莉子が、パンを指さした。


「どころでさ、あのパン白石が買ってきたんだよね?」

「うん。そうだけど」

「ふーん、藤田くんって優しい人だと思ってたけど、違ったんだね」

「・・・・・・どういう意味?」


 莉子の言葉に、周は急に不安になった。


「だって友達にパンを買いに行かせるなんて。不良少年じゃん」

「ちっ、違う」


 驚きのあまり、さっき飲み込んだパンが戻ってきそうになった。


「普段は一緒に購買に行くんだ。けど、今日はみなとが財布を忘れちゃったと言って。俺が奢ってやったんだ。そのお礼であいつが勝手に俺の財布を取って買いに行ったわけだから、誤解しないで」

「へぇ、ほんとかな」

「嘘じゃないっ」


 周は激しく否定した。いつもなら否定するの面倒で「はいはい、不良少年です」と笑い飛ばしたはず。だけど、なぜだろうか。莉子にはそんな誤解されたくなかった。


「プフッ、冗談だよ。藤田くんが不良少年なんて、ありえない。冗談で言ったことだから、気にしないで。ほら、もう座って」

「ん? あ、わかった」


 あまりにも興奮しすぎたため、気づけば少し腰を浮かせてしまっていた。周は照れくさそうに後頭部を掻きながら、再び椅子に座った。


「あら、顔赤くなった」

「ちっ、違う」


 周は慌てて顔を逸らした。莉子にあんなこと言われたからか、本当に顔が熱くなった気がした。周はお茶を飲んで火照りを冷ました。

 お茶のペットボトルを机に置いて言った。


「っていうか、七瀬さん、俺と一緒にお昼食ってもいい?」

「どういうこと?」

「いや、その・・・」


 周はそっと教室を見回した。こっちを見ている何人かと目が合った。相変わらず、こっちへ向けられた視線が多い。周は身を乗り出して、周りに聞こえないよう口元を手で隠して小声で囁いた。


「バイトしてること、学校に知られたくないんじゃなかった?」

「うん。知られたくないよ」

「だったら、こうして一緒にお昼食ってもいいなの?」


 周と莉子は、これまで学校でまともに話したことすらない。そんな二人が、突然一緒にお昼を食べていたら、周りに不思議に思われてしまう。


「これじゃバレちゃうかも」

「大丈夫大丈夫。バレないよ」


 莉子はのんびりと笑って言った。


「名探偵コナンでもないし、一緒にお昼を食べるくらいで、『あ、あの二人、きっと一緒にバイトしてるんだ』なんて思う人はいないよ。せいぜい『ちょっと変な組み合わせだな』って思うくらいかな」

「それはそうかもしれないけど、変に思われたらどうするんだ」

「変って?」

「その・・・」


 周は視線を逸らしたまま、言葉を続けられなかった。すると、何かに気づいた莉子はクスッと目を細める。


「たとえば、『あの二人、付き合ってるんじゃない?』とか?」


 莉子の言葉に、周は目を大きく見開いた。

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