第11話 答えられない質問
周は戸惑ったように、両手を右左に振った。
「つ、付き合ってなんて。そんなこと考えてないよ」
「そう? じゃ、私が藤田くんに興味あるって思われるかな」
「そ、それは違うと思う」
「じゃあ、逆かな」
莉子の言葉に、周は口を閉ざした。その無言の答えに、莉子はニヤリと笑った。
「なになに。藤田くんって私のこと嫌い?」
「・・・嫌いじゃない」
「じゃあ、好き?」
「それは・・・」
周はそっと顔を背けた。
困った。答えられない。
嫌い? 好き? と問われたら好きな方だと思う。嫌いになる理由もないし、あんなに可愛い人のことをなんの理由もなく嫌いにはなれない。だけど、そういうのを本人前で言うのは流石に、いや、結構恥ずかしい。
しかし、答えを期待するような眼差しでこっちをじっと見つめる莉子。暗に圧をかけてくる視線に、周は喉が乾いてきた。お茶を飲み、返事を少しでも先延ばしにするため、周はわざと焼きそばパンをいつもより時間をかけて噛んだ。だが、いよいよ飲み込まないとならない時がやってきた。もう逃げることはできない。結局、周はパンを国っと飲み込み、観念したように口を開いた。
「その・・・友達としてっ」
「あら、二人一緒だね」
周が言いかけた瞬間、近くを通りかかった女子に言葉を遮られた。
「ほんとだぁ。これはまた珍しい組み合わせだね」
「莉子ちゃん一緒にお昼食べるって藤田くんだった?」
あ、この二人知ってる。いつも七瀬さんと一緒にいる二人だ。確か名前は・・・背が高くてショットヘアの方が高村ハル。もう一人の、くせ毛のロングヘアで小柄な方が小川ことはだ。
ハルは周と莉子が一緒にいることに疑問を抱えた。
「二人って一緒にご飯食べるほど仲良かったっけ」
「話すの一度も見たことない」」
「これから仲良くなりたいと思って」
「「いきなり?」」
ハルとことはが同時に首を傾げ、不思議そうな表情を浮かべた。
「莉子が男子と仲良くなろうと思ったの、初めてじゃない?」
「確かに。藤田くんとなにかあった?」
「いや、そういうんじゃないよ」
莉子は首を左右に振った。すると、ハルは周の方へ視線を移した。
「藤田。莉子と何があった? 二人ってまともに話したこともないじゃん」
ハルの問いかけに、周は横目で莉子を見た。莉子は小さく両手でバツを作って見せた。
「別に、何もなかった」
「ふーん、答えてくれないね」
ハルは推しそうにわずかに顔をしかめた。まだ何か聞きたそうだった。だが、それ以上は許さないと言わんばかりに、莉子はパンパンと手を叩いて二人の注意を引いた。
「はいはい。質問時間はここで終わり。私たちまだご飯食べてる中だから、もう席に戻ってね」
「えぇ、一緒にいようと。莉子ちゃんと一緒にいたい」
「食べ終わったら行くから、それまで席で待ってて」
「わかった」
ことはは唇を尖らせて、トボトボと自分の席へ戻っていった。ハルも小さく頷き、ことはの後をついていった。やっと二人きりになると、莉子は深いため息を漏らした。
「危なかったー。藤田くんが言った通りだね。私たち一緒にいると、みんな不思議に思うんだ」
莉子は不思議そうな顔を浮かべた。
七瀬さん、学校で自分がどんな位置なのか自覚ないんだ。
いまだに周りの視線が痛い。この学校に入学してこんなに注目を浴びたことはないのに、七瀬さんと一緒にいるだけでみんなが俺を注目している。まあ、七瀬さんは無視するのか、気づいてないのか、わからないんだが。
周は周囲の視線から逃げるように目を逸らして、焼きそばパンにかぶりつこうとした。口を開き、パンを口元へ運んだ。その瞬間だった。不意に、莉子が箸を持ったまま手を叩いた。
「あ、そうだ!」
周は驚いてパンを落としかけた。
莉子は箸を机に置き、腕を組んだまま少し身を乗り出した。
「私、藤田くんにお願いがある」
「なに」
「ふーん、今は内緒。店で教えてあげるよ」
莉子は微笑んで唇に指を当てた。
一体何をお願いつもりだろう。
周は首を傾げた。気になって今教えてくれって言いたいけれど、なんか食事の邪魔をする気がして、今は聞かないことにした。
******
午後のホームルームが終わるや否や、周は自分の鞄を取ってバイト先へ向かった。
七瀬さんはもう行ったんだろうか。
教室を出るとき、何気なく莉子の席へ目を向けると、空いていた。どうやら、先にカフェへ向かったようで、周も早足にカフェに向かっている。しばらくすると、見慣れた店の看板が遠くに見え始めた。
七瀬さんはもう着いてるんかな。
周は大股で歩いて店のドアを開け、中に入った。チリンと鳴るドアべると共に女の声が一つ聞こえてきた。
「いらっしゃいませー」
あら、七瀬さんの声じゃない。
莉子の声より低くて、少しハスキーな声だった。




