第二十三話 道
白いドラゴンのホワイトと、ドンの村の娘リサことエリザベートの二人は、旅に出るまでの3日間、旅の準備もしつつドンの村で仕事を手伝っていた。
リサは旅に必要な保存食を作れるだけ作り、ホワイトはフォスター伯爵の指示でブリストルからドンの村までの道を作ってやっていた。
フォスター「なんとも恐ろしいが、爽快でもある。ホワイト様、ここまでで十分です」
まずはフォスター伯爵がホワイトに乗って上空からの地形を確認し、彼が描いた新しい道筋をホワイトの強烈なドラゴンブレスで焼き払う、という豪快な工事をした。一時、森の動物やモンスターたちは大混乱だった。
ブリストルまでの新たな道は1日とかからず貫通し、あとは焼け野原を人間たちが整備するだけになっている。とはいっても、灼熱のドラゴンブレスで地面が溶け出して固まっているところもあるほどだ。これだけで物資の搬送が今まで以上に早くなるのは言うまでもないだろう。
フォスター「このお礼をどうすればいいのやら。いや、絶対にこの村を発展させることで貢献しましょう。世界一の温泉街にしてみせますよ!」
『それは、貴様の夢なのか?』
フォスター「夢? 確かに夢ですが、私としては野望と言ったほうがいいかもしれません」
『野望?』
フォスター「世界にゴーレム温泉とドンの名を知らしめる。そして、その街を作った私の名前を歴史に刻ませる! ただの建築家ではなく、芸術家として後世に名を残すのです。永久に!」
『面白いやつだ。』
フォスター「さあ、私は止まっていられません。仕事をしなければ」
ホワイトは考えさせられた。人間の弱さはそれなりに知っているが、そんな者でも歴史に名を残すほどの偉業を成し遂げることができる。
永遠に仲間たちの記憶に残る。それがもはや孤独とは真反対にある性質のものだということを感覚で理解した。
『私は、名を残す意味があるのだろうか?』
この世界にドラゴンの仲間がいるかも怪しい今、人間の歴史に名前が刻まれることにこだわる意味はなかった。
記憶に残るなら、同じドラゴンの間で残って欲しい。
今回の件で、ホワイトは世界を回る旅に意義を見出したのだった。
≪天の王よ≫
考え込む彼に大地の精霊が話しかけてくる。
『また貴様か?』
ホワイトはゴーレム温泉の湧く山のてっぺんへと飛び立ち、ゴーレム岩の前で話をした。
≪大地を揺るがし、約束以上のことをしてくれた。感謝する≫
『あれは人間のためにしてやっただけだ』
≪迷っておられたな。古い知識ではあるが、これを授けよう≫
『なに?』
≪ここから一番近い場所、中央大陸の西の僻地に龍の巣があると聞く。ほかにも、中央大陸には勇者がごまんといた。今もその血脈が絶えず流れていれば、会えるやもしれぬ≫
『西の僻地だな。しかし、勇者? 私は人を探してはおらぬ』
≪勇者の居るところには強大な魔物がいる。それがドラゴンである可能性もまた無きにしもあらず≫
『なるほど、勇者を探すのがヒントになるのか』
≪貴殿の旅路に答えが見つかるよう祈ろう≫
『答えか…………。』
白いドラゴンは空を見上げた。その先には浮き島と白い月が並んでいる。
ホワイトがゴーレム温泉山の頂上でその風景を見やる様子を、リサや村人たちはみんな見ていた。
今にも彼は独りで飛び立って、あの【浮き島】へと行ってしまうような感覚に襲われて、みんなは寂しくなった。そうしたらもう二度と会えなくなるような気分だった。
少女は真っ直ぐに彼を見つめていた。




