第二十二話 エラスモサウルスの魔石
ゴーレム温泉のある村ドン。ブリストルから建築家もやってきて、ここを立派な温泉街にしようという計画が立ち上がった。村人たちは相変わらず朝から仕事に精を出していた。
ズウリエル「ふうむ、どうせならもう一泊して温泉を堪能したいところだが、視察も済んだし、ブリストルも西側の件で騒がしくなっているだろう」
ズウリエル公爵はこのとき、まさか白いドラゴンが乱入したせいで一日で西側の問題が解決したとは考えてもいなかった。
ズウリエル「ホワイト様、私だけは帰ろうと思います。また運んで下さると助かる」
『もちろんだ、友よ。』
ズウリエル「それと海の件ですが、ここでの仕事が終わったらまた是非ブリストルへいらして下さい。リサのために輸送船への手配と案内をさせましょう」
そう、リサとホワイトは海を渡って大陸へと渡るつもりなのだが、さすがにリサを乗せたままでの飛行では時間がかかりすぎるし、迷う可能性が高い。海は広く、停まれるところもないのだ。
そこで、リサを船に乗せて運び、ホワイトをその護衛に付けさせようというのがズウリエル公爵の案だった。時間はかかるが、安全だし確実に大陸を目指せる。それから、現地での案内も多少はできるというのがあった。
ズウリエル「まあ、詳しくはまた今度来たときに。それでは」
村人たちに見送られ、ズウリエル公爵はお付きの衛兵の一人も連れて一緒に帰って行った。
ドン「さあ、割り振りを貰ってないもの、仕事の済んだものは私とフォスター伯爵のところへ来るように」
そんなこんなで、リサとホワイトはまだしばらくドンの村の整備に協力していた。
アーチー「げぇほっ! げほっ!」
エイサ「ナイフの切れ味がすぐダメになるなあ」
子供たちに与えられた仕事はメガロサウルスの解体、加工、燻製、塩漬けなどの処理。
旅立つリサのためにも、村の保存食のためにも必要なものだ。全てを無駄なく使えるようにと、子供たちの手も使ってやらせていた。
アーチー「なんせ世界一周するには一ヶ月はかかるからな。たっぷり持たせてやらないと」
注意して頂きたいのは、彼らは無知だということである。世界はせいぜい自分等の住んでる森が10個あるくらい、としか認識していない。
リサ「そんなにかかるの?」
アーチー「当たり前だろう? 船が海を渡るだけで4日はかかるんだ。大陸をぐるっと回るのに3週間だとして一ヶ月さ」
リサ「なんだ、10日くらいで終わると思ってた。あと2着くらい服を持っていったほうがよさそうね」
ポリー「大陸ってミッドガルドがあるのよね。もっと綺麗な服が見つかるかしら?」
エイサ「いいよな、お前たちはおこぼれで服が貰えて。おれも衛兵の鎧が欲しいよ」
イートン「むしゃむしゃ」
マリー「あっ! また食べてる。ダメじゃない、火が通ってないのよ」
彼らの無邪気な会話を、近くでやっていた村人たちは笑って聞いていた。
アーチー「ところで、なんで世界旅行なんて行くんだ? ブリストルだけで十分じゃないか」
リサ「ホワイト以外のドラゴンを探しに行くの。けど、見付かったらどうするんだろう? 結婚するのかな?」
アーチー「ドラゴンも結婚はするのか?」
リサ「男と女がいたら結婚するものよ」
エイサ「それよりさ、さっさと帰ってきて次はおれを旅にやってくれよ。船に乗ってみたい」
他愛ない内容だったが、彼らとそんなことを話すのはこれが最後になるかもしれない。子供たちはそんなこと考えてもいなかったが、そうしたのはクラリスの計らいだった。
出発するその日まで、彼らは一緒に仕事をして、温泉に入って過ごした。
一方、こちらはブリストル城に到着したホワイトとズウリエル公爵。二人が帰って来るや否や、騎士団が駆け付けて丁寧に迎えた。
チャーリー「ズウリエル公爵、おかえりなさい。もう終わったのですか? それとも何かありましたか?」
ズウリエル「うむ、フォスター伯爵が優秀でな。私の出番が無くなってしまった。ちょうどいいからこのまま違う仕事を済ませようと思ったのだ。チャーリーは引き続き代理者として民を指導するように」
チャーリー「は、はあ……いや、ハイッ!」
アイアンサイドとヒューは昨日のことでホワイトに感謝を述べたかったが、幾人か不幸に見舞われた者はいたのでそちらの処理に回っていた。代わりに、別の騎士から感謝の言葉が伝えられた。
騎士「…………と、いうわけでブリストル湖のエラスモサウルスの魔石をホワイト様にとのことです」
魔石の大きさ3立法メートル。これひとつでブリストルの街と城がそっくりコピーできるほどの金額になるといえばわかりやすいだろうか。
勘のいいはずのズウリエル公爵は、なんのことかも察知できなかった。そもそも、目の前にある黒光りする岩が魔石だと認識できていない。
『いらぬ』
騎士「しっ、しかし、ボスの魔石ですよ!? いくらあなただってこれを取り込めば進化する可能性だって…………」
『興味が無い。そもそも貴様らが狩っていた獲物だろう? 随分弱らせていたのに邪魔をしたのは私だ。それを奪うのは私の望むところではない…………それに、あの首長は不味かったから好かぬ。』
チャーリーには半分予測できていた言葉だった。ホワイトはそういうプライドを持った生き物なのだ。味が良くないというのも共感できる点がある。
騎士「これは…………ズウリエル公爵! ちょうどよかった。こんなもの私では判断できません!!」
ズウリエル「むう、ともかくホワイト様はいらんと言っておるし、また後日訪れるから預かっておけ。私も詳しい事情を知らんしな」
『では、私は帰る。また会おう、友よ』
ぶわっさ! と翼が大きく広げられた。
ズウリエル「ありがとう、“ブリストルの白き友”! また美味い飯を用意しておきますゆえ!!」
『楽しみだ』
白いドラゴンが気持ち良さそうに空へ浮かんでいくのを見送る。その姿は、エラスモサウルスの巨大な魔石に反射していた。




