第二十一話 新たな村人
アビゲイルの指揮する衛兵隊を乗せた荷馬車がドンの村に到着したのは日暮れになる3時間前のこと。彼らが最初に目にしたのは徘徊する小さなゴーレムだった。
荷馬車に揺られて固まった体をほぐすついでに、損壊した家屋の解体作業を行っていたとき、アビゲイル隊長はズウリエル公爵に呼ばれた。
ズウリエル「アビゲイル、ここでの衛兵隊の任務なのだが、予定よりもっと長くなりそうなのだ。定住も視野に入れて働けないか?」
つまり、ここを町にするために警察機構を設置しようという話だった。
アビゲイル「任務である限り拒否はできません。私は暁のブリストルですから」
ズウリエル「無論、任意制にはする。必要な施設や個人宅も建てさせるから、どうか?」
アビゲイル「自宅まで? それは願っても無いことです。しかし他の者はブリストルに家族もいるので…………その件は私から全員に話をしておきましょう。いずれにせよ、私には家族はいませんのでお引き受けします」
ズウリエル「良かった。家や施設に関してはフォスター伯爵ともよく話して造り上げてくれ。正式な任命はまた今後になるが…………この村を頼む」
ズウリエル公爵は語尾を強めて言い、アビゲイルの手をぎゅっと握った。公爵が一介の騎士に懇願して握手するなど異例のことだが、ズウリエル公爵とはこういう人物なのだ。
アビゲイル本人にとってもイイ話だった。まだ全然働けはする年齢だが、引退後のことや戦争で派遣されることを考えたらどこかで定住できるほうがいい。
アビゲイル「独り身で長生きしてもどうにかなるわけではないが…………」
そんなアビゲイルと似た境遇のクラリスとが出会い、親友同士になるのに時間はかからなかった。
フォスター伯爵がこの村に残ってまで温泉街を作りたいと言ったのには、彼の野心が含まれている。
彼は根っからの建築家であり、デザイナーだ。“ゼロから町をデザインできる”という大きな目標が彼の頭に浮かび上がると、うまいこと二人を言いくるめてしまった。自分でもよくもまあ舌が回るものだと思った。
フォスター「ゴーレムの歩く温泉街。実に面白い! 宿泊施設を建てるにしても、目玉になる儀式のスペースは大きくとらなくては…………もっと地形を観て回れないものか」
彼はハッとした。またドラゴンに乗せてもらって上空からこの地をじっくり観察できないものか。
危険や恐怖といった感情など微塵もなくなり、ドラゴンに嘆願して行動に移していく。仕事に精を出すフォスター伯爵を見たみんなは、なんと誠実な人だろうと彼を賞賛した。
ドラゴンに跨がって飛び立つフォスター伯爵を見たズウリエル公爵も感心した。
ズウリエル「まさかあそこまでやる気があったとは。ブリストルの西側も早急にさせねばな…………」
こうして、ドンの村になくてはならない人物が二人加わり、衛兵の十何名かもこの地に定住することとなった。
ちょっとした問題は、白いドラゴンとリサはいつまでここに居るかということだった。
出来るならズウリエル公爵をブリストルの街に帰すまではしてやりたかったし、海から先への案内も欲しい。
『リサ、数日程度は構わぬだろう? 我が友のためだ、してやれることをしたい』
リサ「うん、あなたがやるならわたしもやる。それに温泉気持ちいいもん!」
ゴーレム山の頂上にはさっそく簡易露天風呂が設置され、村人御用達となった。
青い月と星空の下で入る温泉は、一日の疲れなど吹き飛ばしてしまう。その贅沢をみんな存分に堪能した。




