64 脱獄への道
「…ふぅ…まったく…参ったのね!」
「おう?どうしたんだよ…ティナ?もじもじして…。おトイレか?」
「バッ…バカなこと言わないのね!レディーに対して…お前!失礼なのね!」
レディー…って…。まぁ…俺が悪いのは確かだな…。
「わりぃわりい…。んで…何が参ったんだ?」
「この監獄…全体に魔力結界が張られているけど…どうもただの結界じゃないのね…」
「…?どういうことだ?」
そんな俺の疑問に…側にいたレイヴォルトは納得したように頷くと、俺たちに分かりやすいように説明することに…。
「気がついたようだね…。この結界は囚人の様子だけじゃなく…魔力を抑制する働きもあるんだ」
「まっ…まりょくぅ?」
「人間にも魔族にも…その量は異なるが魔力が存在している。魔力の多いものは高度な魔法を扱うことができるし…連続して発動することもできる」
はぇぇぇ…。魔法の存在はワンスラプレイしたときから知ってるが、魔力の量が関係してるとか…。意外と奥が深いな…。
「多分…ティナさんは結界の影響で体の異変を感じたんじゃないかな?魔法がうまく使えないとか…」
「…まったくその通りなのね…。小さな魔法ならなんとかいけそうだけど…転移魔法の類いは無理なのね…」
…転移魔法か…。そういや前のパーティーで実際に体験したよなぁ…。あのときは魔王城の中から、あっという間に草原に飛んだっだっけ…。…てことは…
「…つーことは…ここから脱出したらすぐに転移魔法で戻ることができるんだよな?」
「…理屈でいったらそうなるのね…。ただ…うまくいくかはわからないのね…」
「わかんない?」
「転移魔法を使うにも時間が必要なのね…。すぐ近くなら短時間でいけるけど…魔王城までとなると…」
「ふーむ…。追手に追い付かれる…わけか…。」
それは…キツいなぁ…。そうなるとどっか安全な場所まで移動しないと…。
そう考えていると…レイヴォルトからとんでもない情報が飛び出してきた…。
「…まだ言ってなかったが…ここは海底だぞ?」
「…ほぁっ!?海底って…!」
「海底監獄…『ブォルバス』…。魔の暗黒海の中心に位置する深海300クォーツの深さに建てられている…。生身の状態で脱出したら、一瞬で水圧に押し潰されるだろうな…」
「…なっ…なんてこった…。ちなみに300クォーツって…いや…1クォーツでどのくらい?」
「…君の身長で1.7クォーツほどだが…」
「ほうほう…つーことは1クォーツで1メートル…。つまりここは…深海300メートルか…」
この世界の単位については色々知らねぇとなぁ…というのはおいておいて…。
深海300メートル…。無茶苦茶じゃねぇか…。下手したら脱獄どころじゃねぇよ…。
そんな俺の不安な顔を見ると、励ますかのようにレイヴォルトは語りかけてきた。
「…大丈夫だ。脱出の方法はある。今は詳しく言えないが、私を信じて欲しい」
「うーむ…そう言うなら…」
「とにかく…まずは上へと登ることが先決だ。ここはまだ最下層…最上階に出入り口があるからな…」
「ほーぅ…ちなみに何階層あるんだ?」
「ここを入れて5階層…。つまり…4度ほど登る必要がある」
…なるほど…。これは骨が折れるなぁ…。まぁ…絶望的な構造ってわけでもねぇし…何とかすれば意外と…
「…さて…看守も見当たらないな…。ここを出るぞ…二人共…」
「おうよ!」
「ふぅ…仕方ないのね…」
レイヴォルトの合図で隠し部屋から抜け出る俺たち…。辺りには確かに誰もいない…。別のとこでも探してんだろうか…。
まぁ…それよりも脱獄だ!どっかに階段だのエレベーターだのエスカレーターだのがあればいいんだが…。
タッタッタッ…
できるだけ足音を小さく…目立つような行動をしない俺たち…。特にレイヴォルトはスゴい…。普通に歩いているようで音なんか一切たてていない…。腰には剣もあんのに…どんだけステルスに慣れてんだよ…。
それに比べて…
「ふぅ…ユキ…お前は下手くそなのね!しっかり音を殺して歩くのね!」
「くっ…!俺だってこれが限界だっての!つか…ティナはずっと俺の影の中にいるじゃねぇか!ちっとは歩け!」
「ふん!レディは疲れたのね!」
「くっそー…影人一族…羨ましいぞ…!」
下手くそな歩き方をする俺と影の中で突っ込みをいれるティナ…。お互いにあーだこーだと言い争いをしている姿はアホみたいだ…。
しまいには…
「…今は周りに誰もいないからいいが、とにかく口を閉じた方がいい。いつばれるかわからないからな…」
レイヴォルトから注意を受けるほど…。これじゃあ俺たち子供みてぇだ…。しっかりしねぇと…!
「この地下5階には、これといった罠もないはずだが慎重に…」
「おうよ!まぁ…俺もそれなりに鍛えてっからよ!」
俺はそうしてレイヴォルトに自信満々に応えたが、正直心の中では心臓バクバクだった…。…だが後戻りはできねぇ…。なんとしても…こっから脱出してやるぜ!
―
…
…そう意気込んでいたのだが、意外にも地下4階への階段を見つけるのはスムーズだった…。…おいおい…なんのハプニングもなかったんだが…。
「…なんかあっけなく見つかったな…」
「…ティーも少しは骨が折れると思ったのね…」
俺の言葉を聞いて素直に同意するティナ…。てっきり変なモンスターとか、看守の大群に追いかけられるかと思っていたのに…。
それだけレイヴォルトの案内がしっかりしているってことか…。
「…あまり安心はできないぞ。これより上には面倒な罠が張り巡らされている…。そもそもこの地下5階は多くの囚人を収監するために用意された所だからな…」
「はぇぇ…それはすげぇな…」
レイヴォルトの話が本当ならこっからが本番ってわけか…。なら…こっちも覚悟を決めねぇとな!
だが、このあと…。俺はこの監獄の凄まじさを身をもって体験することになるなんて…。このときは想像もできなかった…。




