65 階段を抜けると極寒の世界でした
「ふぉぉぉぉ!?めっちゃさみぃぃぃ!!」
そう…そこは極寒の世界だった…。まさか海底監獄の中に吹雪の世界があるなんて…。どーなってんだ!?
「…この地下4階は氷雪の間と呼ばれている。囚人が脱獄した場合、必ずここに登ることになるが…多くの者は氷の塊になるな…」
とんでもない寒さなのに冷静に喋るレイヴォルト…。顔色も変わることなく…鼻水さえ流さねぇ…。俺はブルブルだってのに…。
くそっ!ティナのやつは影の中から出てこねぇし…。俺だけ損してんじゃねぇか!
「おまっ…!なんでそんなに冷静なんだよ!ものっそいさみぃぞ!」
俺のそんな言葉に…レイヴォルトはポケットの中をごそごそすると、何かを取り出した…。いったい何を…
「…すまない…事前に説明すべきだった…。この石を肌身離さず握ってもらえるか?」
そう言って渡してきたものは…
「…これは…『熱光石』?」
「…知ってるようだね…」
「あっ…あぁ…。ちょっと前のパーティーでよ…」
あのとき…草原の大地でメーラからもらったよな…。確かあれのおかげで寒さも感じなくなったような…。…なるほど!そーいうことか!
ギュッ…!…ニギッ…!
「おぉ!やっぱりあったけぇ!サンキュー…レイヴォルト!」
「まぁ…偶然持っていた物だが…。大きさに関係なく効果は発揮するから良かったよ…」
「だよなぁ…。小さくてもこんなにあったけぇと便利だぜ!」
そんな風に喋っていると…
グルルルルル…
むむ?なんだか獣の唸り声が聞こえてくるような…。もしかしたら近くにいるのか?獰猛なやつだと…俺の力じゃ対処できねぇかも…。
「…少年…いや…ユキ。私の後ろに…」
「…!レイヴォルト…」
「ここの猛獣は簡単に倒すのは難しい…。まずは私の戦い方を見てくれ。猛獣の弱点を探るんだ」
「おっ…おぅ…」
弱点ねぇ…。俺もそれなりに戦えるけど…レイヴォルトがそういうならしゃーねぇな…。
ザッザッザッ…
グルルルルル…ヴォォォォ!!!
わぁお!こいつはスゴい!デケェ体に凶悪な顔面…。むき出しの牙に赤い瞳…。確かにレイヴォルトの言ったことは嘘じゃねぇな…。
姿そのものは…まぁライオンに似ているか…。ふっさふさの鬣は緑色に染まって、体全体は白色…。雪原に立つ姿は百獣の王とは違った印象…『極寒の王』…ってのが似合いそうだ…。
体つきも筋肉で覆われているのか…というほど鍛え上げられている。俺が前に戦った猪みてぇなモンスターとは雲泥の差だ…。
ザッ…
「さて…私たちも急いでいる…。ここで足止めを食らうわけにはいかない…」
グォォォォォォォ!!!
両者対峙する空気は緊張の色が濃い…。もしかしたら…一瞬でケリがつくのかもしれない…。俺はドキドキしながらそんなことを思っていた…。
そして…その時が…
「…フッ…!」
…ザシュッ…!
…ズゥゥゥゥゥ…ン…
「…はえぇ!?チョッ…!」
おいおいおいおい…どういうことだよ…。しっかり猛獣の弱点を見極めようとしたら…ホントに一瞬で決着がついちまった…!
レイヴォルトの動きなんか一切見えなかったんだが…何がどうなってる!?
「…やはり地下4階となるとこんなものか…」
…チャキッ…ン…
鋭い剣が収まる音が響く中…呆気に取られる俺は、口を開けながら呆けてしまった…。それほど今起きた出来事に衝撃を受けちまったわけだが…。
にしても…剣聖の実力ってやつはこんなにもヤバイのかよ…。クリスとタイマン張れそうじゃねぇか…。
「さて…このまま進もう…。さっきのような猛獣はここでは下位レベル…。それでも普通の人間にとっては驚異だろうから、私の後ろに付いていくといい」
「むっ…。うーん…そうなるよなぁ…」
くっそー…。レイヴォルトの言葉が本当なら今の俺じゃお荷物になるだけか…。
できれば俺も戦いたかったんだが…。
そんな俺の思いを見透かしたように、レイヴォルトがこちらを向くと…励ますかのように口を開いた。
「…何もそんなに落ち込むことはない」
「…おん?」
「このフロアには獣だけじゃなく罠もあるからね…。それを探ってほしい…。私は周りの驚異…さっきのようなモンスターの対処をしておく」
うーむ…。確かにその方が効率はいいか…。幸いにも罠を探り当てるスキルはあるし…いざというときはレイヴォルトもいる。無理して俺が戦う必要もねぇな…。
「…そーだな…。んじゃ…俺は俺でできることしとくわ」
「頼む」
こーして…極寒の大地の攻略が始まったわけだ…。
―
…
ザッザッザッ…
雪が降り積もる地面…。真っ白の世界を歩く俺たちは、『熱光石』の力を借りて順調に進んでいく…。
たまにデケェ猛獣とかも現れたが、レイヴォルトの華麗な剣さばきであっという間に仕留められた…。
んで…俺はというと…
「…こっから先…10…クォーツぐらいのとこに爆弾があるみたいだぜ…。とりあえず…避けとくか?」
「そうだな…ありがとう…助かるよ」
スキルを使いつつ、あっちこっちにある罠を探索…。レイヴォルトの補助をしてるところだ…。
まさかこの寒い中でも爆弾だの地雷だのがあるなんて…。この監獄を作ったやつ…ヤバすぎるだろ…。
とはいえ…。こうして順調に進んでたら少しだけ気楽になってきたぜ…。…まぁ…油断は禁物だけど…。
ザッザッザッ…
うーむ…。なんか順調すぎるなぁ…。こういうときはとんでもない罠に引っ掛かるのがオチなんだが…。
…あれ…これってフラグじゃね?
そう思っていると…
…フォンッ!…
―
「…ん?あれ?…レイ…ヴォルト?どこ行ったんだぁ?」
突然…俺の前を歩いていたレイヴォルトの姿が消えちまった…。いや…なにかおかしい…。さっきまで歩いていた場所とはなんか違う…。
俺たちはちょっとした坂になった雪道を歩いてたはず…。それが…いきなり林の中にいるぞ…。まさか…
「…お前…罠を探っていながら、自分が罠にかかったみたいなのね…」
ヒョコッ…
「ティナ!…これって…」
「…無差別転移の罠のようなのね…。引っ掛かったものはエリア内の何処かに飛ばされちゃうのね!」
うぉぉぉぉぉ!!なんてこった!てっきり…ダメージの激しい攻撃型の罠を探ってたんだが…。転移型だとうまく対処できねぇ…!
猛獣はレイヴォルトの専門なのに…。戦力外の俺たちが離されるなんて…。
これは…絶体絶命のピンチだ!




