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63 監獄内…大混乱!

「囚人82番!脱獄確認!看守長!指示をお願いします!」


「魔力結界にて移動を確認!どうされますか!」


「このまま現場へ向かいますか!」


「看守長!指示を!」


 そこは恐ろしいほどの混乱が渦巻いていた…。全囚人の管理…監視を行うべき場所…『23番部屋』。ここでは総勢百人にも及ぶ看守によって、日々の職務が全うされている。


 少しでも異常があれば迅速に対応…その場で処理することも珍しくはない。しかし…この日は少しばかり異なる。


 配置された看守の数が少なく…さらに一部の人員が休憩中だったのが災いした…。右往左往しながら汗を流しているものまでいる。


「ぬぅぅ…こんなときに…。レイヴォルトは何をしている!今日はやつが側にいるはずだろう!」


 そうして悪態をついているのは、この監獄の全てを任されている男…ヴォヴォル看守長。


 年は見た目から四十を迎えようかと思われるほど老けており、少しばかりのシワ…髭も生えている。


 しかし、見るものも驚くほどの大きな体格…そして太い腕からは実力の高さを感じることだろう…。


 そして…


「ヒヒッ…こりゃ責任問題ですなぁ…看守長…」


 すぐ近くにはヒョロリとしたやせ形の男が…。腰にまで届きそうな黒髪からは、あまりにも清潔感とは無縁なイメージを受けそうだ…。


 名はバルコス…。副看守長として任された男である。


 本来であれば…ヴォヴォル看守長のサポートに回るべき立場の彼だが、現状にはまったくと言っていいほど覇気がない…。今もただ笑みを浮かべているだけだ…。


 さすがの彼の態度に、ヴォヴォル看守長も苛立ちを積もらせる。


「貴様!何をヘラヘラしている!今すぐ行動に移せ!逃げられてもいいのか!?」


「ヒヒッ…だから言ったでしょう…。あんなやつはすぐ殺しゃあ良かったんですよ…」


「黙れっ!」


 二人の様子…日頃から良好な関係を築いていないことがうかがえる…。それでも、場の混乱は静まらない…。


「看守長!指示を!このままでは逃がしてしまいます!」


「最悪…この監獄の出入り口を封鎖しますか!?」


「魔力結界に影響があるうちに…指示を!!」


 部下の吐き出す言葉には冷静さのひとつもない…。上司の言葉がなければ動くことさえできない…。


 それは、こうした状況に慣れていないことを表しており、そして…ヴォヴォルもそれを痛感していた…。


 そう思っても現状は変わらないと判断したヴォヴォルは声を張り上げて、その場の全員に指示を出すことに…。


「…全看守に次ぐ!今すぐに魔力結界の反応した場所へ急げ!…モニター班はその場で待機!連絡のとれるよう万全の状態でいろ!何かあれば俺に連絡を寄越せ!なにがなんでも…逃がすような真似をするな!いいな!!?」


「「「はっ…はい!」」」



 ダッダッダッダッ…!!



 各々の行動は早く、迅速に行われていく…。一人の将の判断…それが広く伝わったとも言える。


 しかし…


「くっ…!常に完璧を求めていたがために…ここまで徹底していたというのに…。ここにきてこの体たらく!!なんということだ…」


 その将の動揺もまた大きなもの…。拳を握りしめる力は、今にもその場を破壊しそうなほど…。


 そんな彼に対し、バルコスの言葉は挑発するかのようだった…。


「ヒッヒッ…まったくもって看守長も甘いですねぇ…」


「このっ!」


「俺なら…毎日数人の囚人を見せしめで殺しますかねぇ…。そうすりゃ、逃げようとするやつなんていないでしょう?」


「…っ!!」


 バルコスの考えは幼稚なわがままにすぎない…。現実的にそんなことをすれば大問題になるのはわかりきっている。


 しかし、ヴォヴォルはそれに対する反論さえできなかった…。それだけ…彼の責任感は重かったわけだが…。


「んまぁ…これからの処遇は上の連中に任せましょうや…。俺たちは脱獄したやつを捕まえる…。それが今の最善じゃないですかねぇ…?」


「くっ…バルコス…!ヘマは許さんぞ!」


「その言葉…そっくりお返ししますわぁ…ヒッヒッ…」



 コツコツコツコツ…



 どこか余裕を感じるようなバルコスの足取り…。それはこれからの戦いに期待を持っているようで…。


 やがて…バルコスが部屋から出ていったあと、ヴォヴォルは悪態をつくように独り言を口にした…。


「…この…殺人狂がっ!」



※※※※※※※※※※※※※※※



「…ヴォヴォル看守長に…バルコス副看守長?レイヴォルト…そいつらが危険って…」


「あぁ…彼らの実力は別格だ。二人を相手にすると、私一人では少しばかり時間がかかるかもしれない…」


「マジかよ…それヤバイな…」


 …つーわけで…。


 俺たち三人は裏道だの隠し扉だのを駆使して、脱出を図っているわけだ…。内部はものすんごい広さにして、でかいこともあって大変…。


 んまぁ…レイヴォルトの的確な判断や冷静な対応のおかげで順調だけどな…。看守の連中が集まってきたら隠れるなり…注意をそらせるなりできたし…。


 今は隠し部屋にて待機してるところ…。なんのためにこんなもんを用意したのかよくわかんねぇな…。まぁ…休憩場所としてはうってつけだけど…。


 それよりも…『ヴォヴォル』に『バルコス』か…。確か俺が拷問を受けたときに『バルコス』の名前が出てたよな…。


 つーことは…あのときの二人はもしかしたら…


「…あー…もしかしたら俺…その二人知ってるかも…」


「…肌で感じてどうだった?」


「いや…実際に戦ったわけじゃないからなぁ…。んでも…『バルコス』ってやつはなんかこう…ヤバイ感じがしたかな…。俺を殺そうとか言ってたような…」


 レイヴォルトはため息をつくと、少しばかり疲れたような表情を浮かべる…。なんつーか…『バルコス』のことを相当嫌ってるみたいっていうか…。


 俺は少し気になって尋ねてみることに…


「なんだよ…。そんなに嫌なやつなのか?『バルコス』は…」


「嫌もなにも…やつは最悪の男だ…。副看守長としての立場を利用して、ストレス発散のために多くの囚人を殺害…。さらには上級役員からの賄賂の受け取りまで…。その後処理のために、どれだけ私が動いたことか…」


「うわぁ…マジでお疲れだな…」


 …『バルコス』…確かに危険なやつだ…。できればそんなやつと鉢合わせなんかしたくねぇなぁ…。

 

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