第98話 (あ、この階層の構造全部わかっちゃった)
二日目の野営である。
「デカくなってない……?」
「で、でっかくなってますね……」
「さすがはキッポン様! ますます威厳に磨きがかかっております!」
キッポンは成長していた。
現体重は10トン超。縦も横も奥行きも3倍ほどになっていた。
一日中戦い続け、魔物の死体を食べ続けたのだから当然だ。先に進むにつれ、遭遇するモンスターが大型化しているせいでもある。
現在遭遇する魔物はハイオークやグレーターオーガなどの上位種。いずれも体重が数百キロある大物で、ベテラン冒険者パーティでも苦戦する難敵だ。本来、素人に毛が生えただけのポーターなどがかなう相手ではない。
しかし、そこはキッポンのサポートがある。多すぎる敵は密かに間引き、強すぎれば毒で弱らせ、何なら露骨に手足を折っておくことさえある。サポートと言うより、もはや接待の域である。
キュティとリーフは、キッポンが「何かやってる」と薄々感づいているが、
(こんなスムーズな探索は初めてだ! これが邪神様の加護……!)
ポーターはひとり、存在しない邪神の加護に感謝を捧げている。二日目の探索を通じて、その信仰はますます揺るぎないものになっていた。
三日目の野営。
「デカい……デカすぎる……」
「つ、通路が塞がってますね……」
「さすがはキッポン様! 神々しさが溢れておりますっ! 僕の祈りが力となっているのなら、これ以上の喜びはございませんっ! いっ、いえ、これは不遜を申し上げました! なにとぞお許しをっ!!」
キッポンは100トンほどになっていた。
その巨体はもはや通路には収まりきらず、変形して通路を完全に塞いでいる。しんがりという意味なら背後からの奇襲を防ぐ完全な防壁と言えるだろう。事実、「なんじゃこりゃ?」と好奇心で背後から近づいてきた魔物が何体も半自動で捕食されていた。さながらZ級ホラー映画の巨大食虫植物である。
そして、キッポンは全身が感覚器官である。
巨大になればなった分だけ感覚が鋭くなる。
百倍になった結果、どうなるかと言えば……
(あ、この階層の構造全部わかっちゃった)
叡智の塔は「生きた迷宮」という異名でも知られ、その現場を目撃した者こそいないが、絶えずその構造を変化させている。それゆえに探索が難航し、長年にわたって数多の冒険者をはねつけてきたわけだが……
(あー、なるほど、こうやって壁を動かしたりしてるのかあ。階段の位置も動かしてるのね。ここに隠し通路があって……と。うーん、うっかり攻略Wikiを覗いちゃった気分だなあ)
キッポンは、ゲームはなるべく攻略情報を見ずに楽しむ派だった。
ポーター君の育成ゲームも軌道に乗ってしまったし、迷宮探索RPGもその構造がすっかりわかってしまえば興ざめである。そこそこの歯ごたえがあるからこそゲームは楽しいのだ。
ゆえに翌日。
「みんなー、捕まっててー」
「「「……はい? って、ぎゃぁぁぁぁあああああああああ!?」」」」
起床早々、キッポンは三人を触手で捕らえ、猛烈な勢いで通路を疾走し始めた。
(もうクリアしたようなもんだし、それならRTAにチャレンジしないとね!)
かくして、名付けて【叡智の塔RTA レギュレーション:なんとかの杖獲得】が唐突に開幕したのである。




