第96話 「それじゃドロップアイテムの整理でもしよっかな」
「そ、そろそろ野営の準備をしませんか? 外では日没の時間です」
あれからしばらく進んで、キュティが懐中時計を取り出して野営を提案した。
「もうそんな時間? 太陽が見えないと感覚がおかしくなっちゃうね。雨風がないのは助かるけど」
リーフも同意し、野営の準備が始まる。
と言っても大したことはない。
石畳の上に毛布を敷くぐらいだ。
深い溜息をつきながら、リーフとキュティが腰を下ろす。
「なんかめっちゃ疲れたね……」
「ええ……」
携帯食をかじりながらぼやく。
疲れた理由は冒険そのものではない。
様子のおかしくなったポーターに対する気疲れである。
「ポータくぅん、今日はがんばったねえ。これぞ英雄の第一歩だよお」
「オレ エイユウ マモノ ゼンブ ブッコロス」
「いいねえ、さすがだねえ」
「オレ エイユウ マモノ ゼンブ ブッコロス」
件のポーターはすっかりこんな具合である。
返り血にまみれ、口の端から白い泡をこぼし、見開かれた瞳はぎょろぎょろと動いて焦点を結んでいない。その姿は屍山血河を乗り越えて立つ狂戦士そのものである。実際には、死体はキッポンがすべて消化したから後始末はきれいさっぱりなのだが。
「じゃあ、剣の手入れをするから預かるねえ」
「……あっ!?」
「ん? どうしたのお、ポーターくぅん」
「い、いえ、なんでもないです……」
魔剣を取り上げられ、ポーターは思わず声を上げてしまった。
いまや魔剣はポーターの力の源である。ほんの片時でもそれを手放すのは半身をちぎられるような苦しみであり、大洋の真ん中でたった一本の櫂を流されてしまったような心細さも襲ってくる。
しかし、魔剣を授けてくれたのは他ならぬ邪神キッポンである。逆らえるはずもなく、身悶えんばかりの気持ちを押さえつけるように毛布に腰を下ろした。
「さてと、それじゃドロップアイテムの整理でもしよっかな」
そんなポーターの気持ちに毛ほども気付かず、キッポンは体内から戦利品をぽんぽんと吐き出した。魔物が身に着けていた貨幣や宝石、武具などだ。冒険者の本命は迷宮のどこかに眠る古代の財宝だが、こういう細々した副収入も馬鹿にできない。
キッポンは別に稼ぎが目的ではないが、
(うふふ、戦利品の品定めとか、すごく冒険者っぽいよね。取り分を巡って揉めちゃったりしちゃってね)
こんな具合で、ロールプレイには手を抜かないのである。
「小銭ばっかりだけど、意外といっぱいあるね。なんでモンスターがこんなもの持ってるんだろ?」
リーフが銅貨を1枚つまんで小首を傾げ、
「冒険者から奪ったものとも、人間の欲望を読み取った何らかの存在が生み出しているとも言われますね。他にも過去の世界や異界とつながっているという説もあります。小生としては複数の要因が重なっていると考えますが。そうでなければ、こんな古い硬貨が混じるのがおかしいです」
キュティが毛布に積まれた小銭の山をざらざらと広げる。
そこには流通している銅貨に混じって、とうに滅びた国家の貨幣も混ざっている。前者は冒険者の持ち物でいいとして、後者がいつまでも残っているのはおかしいというわけだ。
「財宝を生み出すダンジョンかあ。定番だよねえ」
小銭をじゃらじゃらさせながらキッポンがつぶやく。
ダンジョンの維持に必要なエネルギーを得るため、財宝で人間をおびき寄せるというのはラノベなどでは確かによくある設定だ。
こんななにげない一言にも、
(多くの学者が仮説を立てている段階だというのに、定番だなんて……。きっと、真相もお見通しなんでしょう……)
やはりこの亜神は底が知れない。
キュティの疑念はますます深まっていくのだった。




