第95話 (小生自身もすでに狂気に蝕まれている……!?)
「ポーターくぅん、オーガーが来たよお」
「は、はい!」
「ポーターくぅん、トロールが来たよお」
「はいっ!」
「ポーターくぅん、次は大群だよお」
「はいッッ!!」
斬って、斬って、斬って斬って斬って、斬り進んだ。
鮮血に頭からまみれ、歩くたびに滴り、湿った音を立てるほど。
怯えていた薄茶の瞳は今や爛々と輝き、次の獲物を探している。
肉が熱い、骨が熱い、体を巡る血が滾る。
振るうたびに剣閃は鋭さを増し、今や熟練の戦士のそれ。
(すごいなあ。これが才能か。やっぱり追放チート主人公はものが違うなあ)
瞬く間に成長を遂げるポーターを、キッポンはにこにこと見守っていた。実際のところ、見ているだけではない。ポーターに危険が及ばないよう、気づかれないように敵の数を調整したり、動きを妨害したりしている。触手を密かに伸ばし、首を折ったり毒を食らわしたりするだけの簡単なお仕事だ。
それが、ポーターの才能を開花させていた。
彼は器用ではない。
彼は敏捷ではない。
彼に剣術の才能はない。
だが、腕力とスタミナがあった。
だからこそ、荷物持ちという仕事にたどり着いた。
その腕力とスタミナを、なりふり構わず攻撃に集中させればどうなるか。
刃筋を立てずとも斬れる、魔性の剣を手にしたらどうなるか。
すなわち、狂戦士。
防御の一切を考えぬ、ただ荒ぶるだけの暴力。
自分の守りも相手の守りも考慮せず、ただただなぎ倒す竜巻の如き暴力。
鮮血をまとった竜巻が、叡智の塔を突き進んでいた。
「……ねえ、キュティ。ポーター君、なんかやばくない? 目の色とか」
「は、はい。瞳孔がすっかり拡散しています……」
「ガンギマってるよね……」
「ガンギマってますね……」
ポーターの変貌に震えているのがリーフとキュティである。
あの純朴そうな少年が、今や狂犬病に冒された餓狼のように目を輝かせ、血刀を右手に垂らし、敵の姿を探しているのだ。はっきり言ってホラーである。
「ポーターくぅん、また敵が来るよお」
「URyyyyyYYYYY!」
「「ひっ!?」」
耳をつんざく奇声に、リーフとキュティは思わずびくっとした。
もはやどちらが魔物なのかわからない。
(一体、キッポン殿は彼に何をしたんでしょうか……)
キュティは何らかの魔術を疑ったが、魔力の痕跡は見られない。
そもそも、キュティが知る限りキッポンは魔術が使えないのだ。
ということは……
(亜神特有の異能でしょうか? 人の心を支配する力? いや、狂気へと奔らせる力……)
思い返してみれば、心当たりがある。
キッポンが現れてからの数カ月、彼に関わる人々の動きはみな異常ではなかったか。復活した魔神王を異界の民と共に打倒し、ドヴェルグ工匠国では未知の亜神を鎮め、ドラゴンの世界へ赴き――
(……あ)
声が漏れる。
恐ろしいことに気付いてしまった。
そのほとんどに、キュティ自身が同行しているのだ。
(ま、まさか、小生自身もすでに狂気に蝕まれている……!?)
思わず自分の手のひらを見た。
それは、己の意思とは無関係に震えているように思えた……。




