第94話 贄として選ばれたのではなく――
(うんうん、やっぱり勇気があるな。追放チート主人公は違うねえ)
ポーターの内心など1ミリも気付いていないキッポンは、「戦いたい」という返事に大満足していた。
「でもあれだねえ、ナイフでは大変だねえ。リーチが短いもんねえ」
「は、はい……」
なお、ねっちょりした口調になっているのはキッポンなりの後方腕組み彼氏ヅラである。ポーター君はワイが育てた……とドヤりたいのだ。肝心のポーターにはますます不気味に思われるだけなのだが、そんなことちらりとも想像しない。
「それじゃあ、俺がもっとリーチの長い武器をあげるよお」
キッポンは体内でドライヴァルの鱗を整列させ、一本の長剣を作る。ずるりと吐き出して、その柄をポーターに差し出した。
「あ、ありがとうございます……」
ポーターは恐る恐るそれを握る。
黒ずんだ青銅色の刀身はところどころが捻じくれ、焼け焦げて、刀身には歪んだ波紋が連なっている。さんざん酷使してきたドライヴァルの鱗が素材なのだからしょうがないことなのだが、ポーターはそんな事情を知らないわけで、
(ま、禍々しい……。一体どれだけの血を吸ってきたんだよ……この剣……。いや、ひょっとして拷問器具なのか……?)
と慄くばかりである。
本当なら今すぐ投げ捨て、神殿に駆け込んで呪い祓いを受けたいところだが、そんなことをすれば邪神の怒りを買うのは間違いない。強張った頬を無理やり動かして、笑顔を作る。
(うふふふ、喜んでくれてるなあ。ドラゴンの鱗ほどじゃないけど、それに次ぐレアアイテムだと思うんだよね。ラスダンの一歩手前くらいの性能があるはず。やっべ、チートアイテムを与えちゃったなあ)
ポーターの気持ちなどやっぱりわからないキッポンは、主人公を影から助ける師匠キャラになったつもりでご満悦である。
「おっ、また敵が近づいてきたぞ! 今度はリザードマンかなあ」
通路の角から、槍を握った一体のリザードマンが現れる。
それは成人男性ほどの身長の直立歩行のトカゲ。
鎧はまとっておらず、代わりに強固な鱗で覆われている。
初心者冒険者では苦戦必至の強敵だ。
「行けっ、ポーター君!」
「はっ、はいっ!」
本来、ポーターでは荷が重い相手である。
しかし、
(ちくしょう! もうやけくそだっ!!)
ポーターが無我夢中で振るった一撃は、リザードマンの胴体をあっさりと両断した。
「え……?」
ほとんど手応えすらなかった。
まるで薄紙でも切り裂いたようだ。
思わず刀身を見つめかけ、
「ポーター君! まだだっ! あと二体来るぞ!」
「はいっ!」
次いで現れた二体を、横薙ぎの一閃でまとめて真っ二つにする。
やはり素振りをしたかの如く、手の内には何の手応えも残っていない。
「いいねえ、すごい腕前だねえ。君なら絶対その剣を使いこなせると思ったんだよお、ポーターくぅん」
「は、はい……」
ねちっこい声が耳元で囁く。
ポーターは思う。
邪神の剣の何という切れ味か。
まさしく魔剣と呼ぶにふさわしい。
そして、この力を使いこなせるのは自分は、贄として選ばれたのではなく――
――邪神の御使いとして選ばれたのではないか
魔剣を握りしめるポーターの手が震えていた。
それは、恐怖以外の何かが混じった震えだった。
(この剣があれば、僕は本当に英雄になれるんじゃ……)
下腹から膨れ上がる形容しがたい感情。
それが、ポーターの手を震わせていた。




