第91話 「君は主人公なんだから、しっかり成り上がってざまぁしないとダメだよお?」
翌日、ポーターは叡智の塔の第二層にいた。
先を行くのは、弓を携えたリーフというエルフの少女と、長杖を突くキューティリオンという魔導士の女性。そして規格外の巨大スライム……。
(わけがわからないよ……)
肩に食い込む背嚢の紐を直しながら、ポーターは昨日の出来事を振り返る。およそ十日分の食料や野営道具が詰まった背嚢は重いが、彼の仕事は荷物持ちだ。それは当然の苦労である。しかし、わからないのはなぜ自分を選んだのかだった。
「いいねえ、主人公ムーブだねえ。咄嗟に女の子を守るとか出来ないよ。しっかり追放もされてるしねえ。いやー、完全にフラグ立ってますよ、これは。じゃ、明日からさっそく冒険に出るから準備しておいてね」
キッポンというあの謎のスライムから言われたのがこれだ。まったく意味がわからない。
一応、リーフの使い魔だと聞いているのだが、キッポンの言葉に異論を挟むことはなく、むしろ合わせているようにさえ感じた。エルフとはあまり付き合いがないのだが、エルフの魔物使いとはそういうものなのだろうか?
(エルフといえば、ケンジーヤって人も胡散臭かったな……)
酒場で出会ったもう一人のエルフは、キッポンに対して恭しい態度を取りつつも、どこか実験動物を見るような目つきをしていた。そして、
「おお、冒険に出られるのですか! ならば依頼があった方がよいですよね! 私の探し物を依頼したいのですがよろしいでしょうか? 何、急ぎではありませんので期限はありません。キッポン様の観光……もとい、冒険のついでだと思っていただければ。で、探していただきたいのはこちらなんですけどね」
と、差し出してきたのは一本の儀礼杖が描かれた紙である。
説明文らしきものはところどころが墨塗りされているが、それ以前にポーターは文字が読めないのでまごまごしていると、
「ふむふむ。なんとかの杖? 太古の神々が■■を支配するために作られた遺産。特徴は――」
キッポンがするすると読み上げてしまった。
ポーターは知る由もないことだが、キッポンはマザーからこの世界の言語を一通りインストールされているのである。
「おお、さすがはキッポン様。古代語にも堪能でいらっしゃるとは。念のため墨塗りをしておいてよかった……いえ、とくに面白いことが書いてあるわけではありませんので、お目汚しをしなくてよかったと。見つけていただいたら相応の御礼を差し上げますよ」
(古代語だったのか……。古代語が読めるスライムって、僕より頭がいいってこと……?)
地味にショックを受けていると、あれよあれよと話がまとまり、断る間もなく現在に至る――というわけだ。提示された報酬は以前のパーティよりも多く、意味不明の集団だが金回りはよいようだった。
(そういえば、バニッシュたちはどうしてるんだろう)
ポーターは追放されたわけだが、別に恨みがあったわけではない。食い下がりはしたものの、追放される理由も一方的に理不尽というわけでもないのだ。
キッポンたちが現れなければ、彼らは今日もこの街で冒険者を続けていただろう。自分に責任があるとは思わないが、悪いことをしてしまったような気もする。
「ポーターくぅん、浮かない顔をしてどうしたんだい? 君は主人公なんだから、しっかり成り上がってざまぁしないとダメだよお?」
「ひいっ!? は、はい!」
考え事をしながら歩いていたら、前方から触手(人面)が伸びてきてこんなことを言われる。主人公とか、ざまぁとか、ぜんぜん意味がわからない。
「くれぐれもキッポン殿の機嫌を損ねぬよう注意してくださいね」
「は、はい……」
そして、キューティリオンという魔導師からはたびたび小声で注意をされる。
まるで特級の呪物でも扱っているかのようだ。まあ、キッポンが実は邪神の眷属だったと言われても納得してしまうが。
(どうして僕なんかを仲間に選んだんだ……)
何度考えたかわからない疑問を繰り返す。
そして、先ほど脳裏に浮かんだ「邪神」という言葉と化学反応を引き起こした。
(ひょ、ひょっとして、僕は邪神の贄に選ばれたんじゃ……)
最悪な予感に、ポーターは背筋がすっと冷えていくのを感じていた。




