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絶対に進化できないスライム転生  作者: 瘴気領域


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90/122

第90話 「俺をキレさせたら大したもんですよ」

「その言葉が聞きたかった!!」

「ひいっ!?」


 ポーターがバニッシュに立ちふさがったそのときである。

 キッポンはぐにゃりと変形し、ポーターとバニッシュの間に半透明の壁を作った。

 そこから人面を作り出し、ぎょっとしているポーターに向けて片頬を歪める。


「『覚悟』とは……犠牲の心ではないッ! 『覚悟』とは!! 暗闇の荒野に!! 進むべき道を切り開くことだッ!!」

「ひいいいいいいっ!?」


 ポーターは腰を抜かし、床に尻餅をついた。

 意味不明すぎて怖かったせいである。

 なお、キッポン的には渾身のニヒルな微笑だった。


「ば、化け物!!」


 バニッシュが剣を振るい、緑の壁を切り裂く。

 それはたしかに成った。

 成ったのだが、切り裂いたはずの傷口は即座に塞がれ、長剣の刀身はどじゅうと白煙を上げて溶け去った。


「け、剣が一瞬で……!? な、なんだこいつは!?」

「あたいに任せて! 深淵の炎よ、冥王の怒りよ、我が声に応え盟約を果たさんことを! ファイア……もがっもがもが」

「んっんー? イケない言葉を口にするのはその可愛らしいお口かな? お嬢さん」


 さらに、咄嗟に魔術を放とうとしたバニッシュの仲間の女の口を粘液で塞ぐ。

 残り二人もめんどくさいから粘液で沈黙させた。


「キっ、キッポン殿!? ど、どうかどうかお怒りを鎮めてくださいませ!!」

「ん? キレてなんかないよ。俺をキレさせたら大したもんですよ」


 半ばパニックに陥るキュティに、キッポンは変顔を作って応じる。

 実際、まったく怒ってはいない。むしろ言ってみたかったセリフを連発できて大満足まであるのだが、キュティにはその変顔が邪悪な目論見を秘めたものにしか見えなかった。


「おい! 何事だ!」


 酒場のドアがばあんと開き、手に手に得物を持った近隣住人が雪崩込んでくる。

 叡智の塔は自主自立の気風が強い街だ。事件があるとまずは地域住民が武器を持って集まるのである。このあたりの自警制度は13世紀頃のヴェネツィア共和国に近い。


(い、いけません! キッポン殿がますます怒ってしまう!)


 顔面蒼白のキュティが振り返ると、


「ぷるぷる。ぼくはわるいスライムじゃないよ。むしろいきなり切りつけられた被害者だよ」

「は?」


 キッポンは元のまんまるボディに戻っていた。

 遅れて駆けつけた衛士たちの検分の結果、町中で剣を抜いたバニッシュと、強力な魔術を使おうとした女たちが有罪とされた。おそらく国外退去処分になるそうだ。


「違う! あの化け物が先に襲ってきたんだ!」

「剣を一瞬で溶かしたのよ! スライムは擬態で、きっと強力な魔物よ!」

「何を言ってやがんだお前らは。デカくて不気味だが、大人しいもんじゃないか」


 喚きながら連行されていくバニッシュたちを見ながら、


(うふふ、超高速ざまあ達成。これはギネス級じゃないかなあ)


 キッポンはまたしても邪悪な笑み(本人的には爽やかな笑み)を浮かべ、


「ポーター君、きみをうちのパーティに勧誘したい! 一緒にS級冒険者を目指さないか!」

「は、はい?」


 ポーターの肩にぽんと触手を置いた。

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