第89話 「しょうがないにゃあ」
「僕はしがない荷物持ちですけど、パーティの皆さんに迷惑をかけないよう一生懸命やってきたつもりなんです!」
「つもりで仕事が務まるのなら世話はない。この前も魔力回復のスクロールを勝手に使っただろう」
「そ、それは先回りして回復しておかないと危ないと思ったからで……」
「ポーター、貴様ごときの判断など誰も頼みにしていない」
バニッシュと呼ばれた軽鎧の青年と、粗末な服を着たポーターという少年とが言い争っていた。いや、言い争いというよりも、バニッシュが一方的に糾弾しているのに対して、ポーターが必死に食い下がっている格好か。
同じテーブルには他に三人の仲間がおり、全員が女性だ。みな美人だが、少年を見る目には嘲りがあり、性格はよさそうにない。
「何なのあれ? 感じ悪いね」
「冒険者同士のトラブルですね。使えないやつは――」
「パーティから出ていけ、的な諍いです。命がけですし、成果は分配制なのでそういう揉め事が起きやすいんですよ。依頼するときにはそのパーティが長続きしそうか見極めるのも重要なのです」
またしても解説の機会を奪われ、キュティがむすっと唇をつぐんだ。
自分も海老の殻剥きをしていればしゃべるつもりもそもそも失せるだろうと皿に手を伸ばし、はたと気がついた。
キッポンがいない。
「追放!? いまパーティ追放されたよね!? 理由はなになに? シンプルに使えないやつだから? スキルとかあるの? 一見して使い途がわからないようなやつとか、定説では弱いことになってるとか?」
「えっ、ス、スキル? いや、待って。えっ、スライム!? スライムがしゃべってる!?」
「どーも。スライムのキッポンです。ぷるぷる、ぼくはわるいスライムじゃないよ」
「あっ、えっ、僕はポーターです。ど、どうも……」
キッポンは例の騒ぎが起きていたテーブルに乱入していた。
ポーターという少年はたじたじとなり、バニッシュと他三人の美女はぎょっとして身を仰け反らせていた。
「ちょ、ちょっとキッポン殿!? 何をされてるんですか!?」
「あ、あんたがこのスライムの飼い主か? 気持ち悪いから早く連れて行け」
バニッシュは形の良い眉をひそめて吐き捨てた。
そして、キュティの顔色からさっと血の気が失せる。
バニッシュを恐れたわけではない。
キッポンが怒るのではないかと恐れたのだ。
「ちょ、ちょちょちょ、あなた、バニッシュさんと言いましたか? そういう軽率な物言いはよくないですよ。謝った方がいいです。強くおすすめします」
「はあ? 震えながら何を言っている。オレを黄金の牙のリーダー、バニッシュと知って戯言をほざいているのか?」
バニッシュが腰の長剣を抜き放ち、切っ先をキュティの喉元に突きつけた。
「まままマズイですって。ここは穏便に。た、大変なことになりますよ」
キュティの声が震える。
しかし、その視線は眼前の剣には向いていない。
祈るような気持ちでキッポンを見ている。
こんなところでキッポンが暴れ出したら、酒場の客全員が一瞬で食い尽くされるかもしれない。
「しょうがないにゃあ」
「キ、キッポン殿! お、抑えて!」
キッポンがぷるんと震え、キュティがほとんど悲鳴のように叫んだときだった。
「ま、待ってください! バニッシュさん! この女の人は関係ないじゃないですか!」
ポーター少年が、震えながらバニッシュの前に立ちふさがった。




