第88話 解説役としては主張が足りないのである
「いやはや、まさかこんなところでお会いするとは。それもドラゴンの鱗をお持ちだと。ドラゴンの鱗と言えば魔道具はもちろん、霊薬や絵の具の素材としても超一級。聖法国の代々の聖女の肖像などは瞳の彩色にほんの少しだけ使っているのだとか。まさかそんな超希少品を手に入れるなど、さすがは化け……キッポン様ですね。エルフの守神だけはあります」
「お、おう」
ケンジーヤと出会った一行は、一軒の居酒屋に入っていた。
ケンジーヤはしばらく前から滞在していたらしく、門番とも顔なじみで、キュティの導師号証明とあわせて早々に疑いが解けたのである。なお、ここでもキッポンはエルフの守神にしてリーフの守護獣ということになっている。
せっかくの再会ということで食事を共にしたのだが、会話のほとんどはケンジーヤによる質問と解説の嵐になっていた。さすがのキッポンも辟易し、海老の殻剥きに集中している。結局は殻も残さず食べるのだが、校長先生の長話に飽きた小学生が校庭に穴を掘り始めるようなものだ。
叡智の塔は海に近く、海産物が豊富である。キッポンが剥いている海老もその産物で、大雑把に言えばロブスターに似ているのだが、ハサミが四つあるのが地球と異なる。食い出があってお得だなあと爪先に残った肉をほじりながらキッポンは思った。
「もう、こっちの話はいいからさ。そろそろケンジーヤがこっちに来た理由を教えてよ」
長話に飽きたのはリーフも同様で、すり身の団子をつつきながらぼやく。
「ははは、なあに。大したことではありませんよ。旅の風に吹かれただけです。そんなことより竜の鱗の加工ができる工房をお探しなんでしょう? よかったら私が紹介しますよ。おっと、キューティリオン殿はこちらの導師号をお持ちでしたな。それなら工房も研究所も伝手があるでしょう。私が紹介するまでもありませんか。あ、しかし他の素材が不足することもあるのではないですか。そんなときは冒険者に依頼をするといいですね。じつは私もあるものの探索を依頼している最中なのですが」
「冒険者?」
好奇心を刺激する単語を耳にして、キュティを差し置いてキッポンが反応する。
「ええと、この叡智の塔はですね――」
「一階以外は複雑な迷路になっているのですよ。しかもどこからか魔物が湧く。そのため、人が住むのは基本的に一階です。とはいえ天井は数百メートルあるし、壁も柱もほとんどないので十分すぎる広さですけどね。そして、迷路には神代の遺産が眠っています。研究者はもちろん、一攫千金を狙う冒険者も集まるというわけですね。ちなみにこの酒場もそんな冒険者が集まる場所のひとつなんですよ」
やっと自分の番が来たと思ったキュティがむすっとする。解説役とは並び立たない存在なのだ。そして、キャラの濃さと押しの強さにおいてキュティはケンジーヤに遥かに劣っていた。人間的にはキュティの方が優れていそうな気がするが、解説役としては主張が足りないのである。
冒険者が集まる酒場と聞いて改めて辺りを見渡してみると、客は強面が多く、いかにも冒険者と言った雰囲気に見えてくる。
(迷路に冒険者! それってダンジョンってことだよね! うふふ、来てみるもんだなあ。やっぱり異世界ものと言ったらダンジョン探索だよね!)
キッポンがそんな風にうきうきしていると、
「ポーター! お前を〈黄金の牙〉から追放する!」
「バ、バニッシュさん!? ど、どうしてですか!?」
酒場の一角から、そんな騒ぎが聞こえてきた。




