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絶対に進化できないスライム転生  作者: 瘴気領域


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85/107

第85話 (どうして小生は叡智の塔の話などをしてしまったんですか!?)

「ふぉふぉふぉ、無事全勝じゃの。儂の見込んだ通りじゃ」

「負けたときの言い訳しか考えてなかったくせに……」

「む、イムギよ、何か言うたか?」

「ううん、別に何もー」


 黒白大戦は光の竜族の勝利に終わり、今は祝いの宴が開催されていた。

 試合場はパーティ会場に早変わりし、大皿に見たこともない料理がいくつも並んでいる。白竜も黒竜も入り混じってそれを囲み、試合の感想に花を咲かせている。太く短い前肢で箸やフォークを使う様子は見ようによっては滑稽かもしれない。


「光の竜と闇の竜って仲が悪いんじゃなかったの?」

「本気で戦ってたのは大昔の話だもん。そのときはそりゃ仲が悪かったんだろうけど、今はそんなこともないよね。じいちゃんからしてあんな感じだし」


 リーフの疑問に、イムギがフォークで祖父を指す。

 そこではパイロンが、ジョッキ片手にやってきたクーロンと言葉を交わしていた。


「ふぉふぉふぉ、今回は我らの勝ちじゃのう」

「ふん、始まって以来の勝利がほとんど余所者のおかげとはな」

「手加減のつもりだったんじゃがなあ。いやあ、次回はもっとハンデをやらねばならんか」

「ぐぬぬ……調子に乗りおって……」


 和気あいあいと、とまではいかないが、深刻に険悪な感じでもない。悪友同士のじゃれ合いという雰囲気である。


「ま、黒白大戦中は本気で戦うポーズは取るけどね。とくに闇の竜は汚い野次を飛ばしたり。役作りっていうか」

「こら、イムギよ。もう黒白大戦ではないぞ。今日からは白黒大戦じゃ」

「はいはい、勝ったから順番が変わるんだよね」

「軽く言うでない。これは我ら光の竜族の大事な誇りをかけた――」


 自分と関係ない説教が始まったので、リーフは肩をすくめて料理を一口頬張った。

 焼いた巨大魚の切り身である。クジラのような巨体のそれは浮遊島のひとつで養殖している品種らしい。噛むたびにさらりとした脂が滲み出て、いくらでも食べられそうだ。


「竜族が賭けてたものって……」

「試合の呼び名の順番、だったみたいですね」


 リーフのぼやきに、キュティが脱力しながら応じる。


「ねえねえ、そんなことよりさ、報酬は?」

「あ、それならもう受け取りましたよ」


 キッポンに聞かれ、キュティがカバンから取り出したのは、手のひらほどの大きさの鱗だった。真珠色につやつやと輝き、宝飾品としても高値がつきそうだとひと目でわかる。


「ほほう。これが竜の鱗! ねえ、1枚もらってもいい?」

「もともとキッポン殿のもののような気がしますが……どうぞ」


 鱗は五枚ほどもらっている。脱皮のたびに、一枚だけ残す習わしらしい。それ以外の脱皮殻は食べてしまうのだそうだ。

 そして、キッポンは鱗を一枚触手で取り上げると、ひょいっと体内に取り込んだ。


「もぐもぐもぐもぐ……」

「食べっ!? ……い、いえ。キッポン殿のものですからね。扱いはご自由に……」


 キュティの顔が青くなり、声が震える。

 竜の鱗は超を十回つけても足りない希少品である。まさかいきなり食べるとは想像もしていなかったのだ。


「うーん、やっぱり消化できそうにないなあ。進化素材かもって思ったのに。ねえ、これってどんなものの素材になるのかな?」

「よ、それはよかった……」

「え?」

「い、いえ、なんでもありません!」


 鱗を吐き出したキッポンにほっとしていたのだが、咳払いで誤魔化して質問に答える。


「竜の鱗は希少すぎて、定番の用途というのはないですね。叡智の塔でも研究が進んでいますが――」

「ふむふむ、じゃあ次の目的地は叡智の塔だね! せっかくの素材だし、しっかり使い途を見定めないとね。魔法使いの街なんだっけ? ひょっとしたら、そこなら俺でも魔術がおぼえられるかなあ」

「ど、どうでしょうね……」


 こうして、いつものようにキッポンの思いつきで次の目的地が決まった。


(ど、どうして小生は叡智の塔の話などをしてしまったんですか……!? せっかく魔術を諦めてくれていたのに……!)


 若干一名、激しい後悔に襲われている者がいたのだが、新たな旅に浮かれるキッポンがそれに気がつくことはなかったのである。

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