第84話 「名付けて、超マッハ浸透勁」
浸透勁、と呼ばれる技がある。
中国武術の技のひとつで、氣や勁力を相手の身体に浸透させ、内部から破壊するもの――などとフィクションではよく説明される。日本の古武術では鎧徹しと呼ばれることもある技だ。
しかし、読者諸賢もよくご存知の通り、キッポンに氣や勁力のようなオカルトじみた異能はない。できることはただただ物理あるのみである。なお、ここでいう物理とは化学合成などの物理現象一般を含むがそれはさておき。
百年にわたる洞窟での修行生活の中、キッポンはありとあらゆる技を練った。
主に前世で嗜んだフィクションが元ネタであるが、百年もがむしゃらにやっていれば理合というものは自ずと身についてくる。
結果、キッポンの解釈では浸透勁はこのような術理となった。
1.クッションとなる障害物を押しつぶす
例えばウレタンマット越しに殴れば衝撃は吸収されてしまうが、マットをつぶした状態ならば衝撃は吸収されない。
今の状況に当てはめて説明すると、キッポンはドライヴァルの盾で、クーロンの鱗の隙間とその下の脂肪層を押しつぶしている。
2.対象を固定する
相手が動いてしまっても衝撃は逃げる。
ゆえに、キッポンは体当たりのどさくさに紛れてクーロンの両足に粘着液を吐きかけ、床に固定した。
3.つぶした箇所を超音速で押し込む
オカルトを排した場合、浸透勁の内部破壊は物質中を伝わる衝撃波によって起きるとされる。衝撃波は物体が音速を超えて移動するときに発生するものだ。つまり、体の一点を超音速で押し込めば、対象内部で衝撃波が発生する理屈になる。
では、どれだけの速度で押し込めばよいか。
生物の体を水とみなすと、音速は空気中のおよそ5倍、秒速約1500メートル。
この超々音速を実現するため、キッポンは体をバネ状にしたのだ。
格闘家の拳撃は関節によって加速する。
肘、肩、背、腰、股関節、膝、足首――と活用できる関節が増えるほどに末端の拳速は増す。門下生百万超を誇るフルコンタクト空手の一大流派神心会では、全身の骨を蛇のように細かい関節に分解してイメージすることで、超音速の突きさえ実現できるとも教える。
では、キッポンはどうか。
キッポンの体に関節はない。
否、細胞のひとつひとつが関節と言うべきであろう。
キッポンの構成する全細胞は筋肉であり、腱なのだ。
それらの結節点がすべて関節として働くのである。
すなわち、それらをフル稼働させれば――
「うおおおおおお! いっくぞーーーー!!」
螺旋状に変形したキッポンの足元から、数万、数億、数兆の細胞を加速度が伝播。その末端は、音速の壁を軽々と貫き、試し割りの瓦のごとく打ち砕く。
ずっっっどぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおん!!
轟音。
天をも割らんばかりの轟音が、試合場を揺らす。
大気中に広がった衝撃波が武舞台の石畳をめくり上げ、観客席を粉々に破砕する。
余波である。
余波でこれである。
この衝撃の爆心地となったクーロンは――
「ば……か……な…………ごふっ……」
九つの口から血を吐き、その場に崩折れた。
「名付けて、流派スライム・超マッハ浸透勁」
キッポンは空手着をまとった屈強な男の体を形作ると、両手を胸の前で交差させ、
「押忍ッッ!!」
と残心を決めた。
【しょ、勝負ありッ! ま、まさかの勝者は光チーム、キッポン選手だぁぁぁああああッッ!!】




