第80話 (このエルフもたいがいじゃない……?)
「な、なんでドラゴンが負けたのに喜んでいるんですか……?」
選手用観覧席で、キュティが冷や汗をかきながら疑問を口にする。
光の陣営が喜ぶのはわかる。だが、闇の陣営まで盛り上がっているのがわからなかった。
「ドラゴンは強い者が好きじゃからのう。ドラゴンスレイヤーなんぞ滅多に現れんからなあ」
「いや殺してはないんですけど……」
嬉しそうなパイロンに、キュティが頬をひきつらせる。
「あ、若いドラゴンはそんなことないからね。じいちゃんたち神話戦争世代の特徴っていうか」
キュティが引いているのを察知したイムギが慌てて弁解した。
ドラゴンを脳筋の戦闘民族だと誤解されたくないらしい。
「それで、あたしはどうしたらいいの? 矢なんかとても通じそうにないし。棄権してもいいよね?」
次の試合はリーフである。
彼女の武器は毒矢だが、ドラゴンには鱗はとても貫けそうにない。いかに強力な毒を矢じりに塗っても、傷をつけられなければ意味がないのだ。
「ダメダメ! 何もせずに諦めるなんてダメだって! 相手にも失礼だよ!」
「えぇー」
しかし、そこに食い下がったのがキッポンである。
(チーム戦イベントってことは、全勝ボーナスも存在するはず! ミニゲームだからって手を抜くわけにはいかない!)
という、ゲーム脳的発想である。
ちなみに、初戦のキュティが負けていれば全敗ルートに舵を切っていた。そういう場合も特殊なボーナスが得られるケースがままあるからだ。あくまでもゲームの話だが。
「というわけで、こういう作戦で……ごにょごにょ」
「はあ、それくらいならかまわないけど……」
キッポンに作戦を伝えられたリーフが、渋々首を縦に振る。
だいぶ馴染んできたリーフであるが、キッポンの頼みを頭ごなしに撥ねつけられる勇気はなかった。
【第二回戦、闇チーム次鋒、ツヴァイドレイク選手入場!】
歓声とともに、三つ首の黒竜が武舞台に舞い降りる。
身体もアインドレイクより一回り大きく、先鋒よりも順当に強そうだった。
「アインの馬鹿が油断したからな。オレは手加減なぞせんぞ」
観客席からブーイングが上がるが、ツヴァイドレイクは素知らぬ顔だ。
【光チーム次鋒、リーフ選手入場!】
「おいおい、なんだありゃ?」
「人界で流行ってるファッションか?」
会場がざわめく。
それもそのはず、リーフが奇妙な格好をしていたからだ。
「うーん、ちょっと恥ずかしいんだけど……」
その頭は緑色の球体で覆われていた。
まるで宇宙飛行士のヘルメットのようだ。
そして、手にはまた別の緑の球体を持っている。
「あっ」
だが、震える手からそれが落ち、割れた球体から溢れた液体が辺りを濡らした。
「ふっ、何の仕掛けか知らんが、試合が始まる前に壊してしまっては無意味ではないか」
ツヴァイドレイクが嘲笑うのと同時に、試合開始の合図が響く。
【試合開始っ!】
「では、早々に退場してもらうぞっ! 我が渾身のブレスを受けてみよ!」
ツヴァイドレイクが大きく息を吸い込み、胸を膨らませた瞬間。
「ん? なんだ? 急に身体が痺れ……動かな……い……」
ツヴァイドレイクの巨体がずうんと倒れ、ぴくぴくと痙攣し始めた。
【……リーフ選手の勝利っ!】
戦闘不能とみなした審判がリーフの勝利を告げ、会場はどよめきに包まれた。
「もしかして、ぶちまけた液体は毒ガスか?」
「あのヘルメットはガスマスクってことか!」
「しかしこれは……さすがにこれはどうなんだ……!?」
強者を尊ぶドラゴンの間でも、この勝ち方には賛否両論のようだ。
ちなみに、観客の予想通りリーフが使ったのは毒ガスであり、ガスマスクである。キッポンが魔神将ノミカユインの麻痺毒を参考に作ったものを渡していたのだ。
「はい、言うとおり勝ってきたよ。じゃ、あとはよろしくね」
だが、リーフは涼しい顔だ。
リーフにとって戦いとは正々堂々の勝負ではなく、狩りの延長である。
毒でも罠でも使えるものは使って当然。安全で効率的であるほど優れた狩りで、卑怯などとは微塵も思わない。
(スライムだけがやばいと思ってたけど、このエルフもたいがいじゃない……?)
そんなリーフの態度に、イムギは内心で薄ら寒いものをおぼえるのであった。




