第81話 「見てください。キッポン殿まで震えています……」
「ええいッ! 情けない! 何をやっとるか!! 人界の者などに好き放題されおって。次の試合は儂が出るぞ!」
第二試合が終わり、武舞台に上がったのはクーロンだった。
【あのー、クーロン選手の登録は大将でしたけど? 繰り上げで出場するなら闇チームの中堅、副将の扱いは……】
「全部儂がやる! それなら文句はなかろう!」
審判のドラゴンは少し考え込んでから、観客席にマイクを向ける。
【こう言ってますけどー。みなさんはいいですかー?】
「おもしれえ! やらせてみろー!」
「賭け札を作り直さねえとなあ」
「どうせなら三対一でやれよー」
審判はうんうんと頷いて、
【3対1でやれって声もありますけど?】
「かまわんっ! むしろ望むところよ! 闇の竜の圧倒的な強さを見せてやろうではないか!」
【光チームさんの方はいいですかー?】
「ふぉふぉふぉ、望むところじゃ! 三人で囲んでフクロにしてくれるわ!」
「えぇ……」
祖父の発言にドン引きするイムギとともに、パイロンも武舞台に上がった。
キッポンも観客席から飛び出し、武舞台の中央にぷるんと着地する。
せっかくならリーダー的ポジションを取りたかったからだ。
(全勝を狙うには副将戦と大将戦がネックだったけど、これで勝てば全勝じゃん。それにいかにも特殊イベントって感じだし。ラッキー♪)
キッポンの辞書にも正々堂々という言葉はない。
いや、あるにはあるが、それが機能するのはフラグに関係しそうな場合だけである。
例えばこれが戦場での一騎討ちであったなら「ここは俺に任せてくれないか」などとキメ顔でのたまっていただろう。
【両チーム合意が取れましたので、試合開始っ!】
試合開始のアナウンスと同時に、まずはクーロンが動いた。
「常は封印しておる儂の本当の力、見せてくれようッ!」
その全身から黒い靄が吹き出す。
靄は凝集し、黒光りをする鎧となって九頭の巨体を隙間なく覆った。
「神話大戦以来、この姿を見せるのは初めてのことよッ! 光栄に思うがいい!」
それはまさしく神の如き威容。
夜を煮詰めたような妖気に、観客席にざわめきが広がる。
「おいおい、これじゃ死人が出るんじゃねえか」
「殺しはルール違反だろ?」
「つか、巻き込まれたらオレらもやばくないか?」
わあっと悲鳴が上がり、客席のドラゴンが一斉に飛び立ち、逃げていく。
「えっ、これってマズイ雰囲気じゃないの……?」
「魔術で防壁を張ります! リーフさんも入ってください!」
キュティが展開した魔術防壁にリーフが慌てて駆け込んだ。
「流れ弾が直撃したら防ぎきれるかわかりませんが……」
「ちょっ、怖いこと言うのやめてよ!?」
クーロンから放たれる圧力はそれほどに凄まじい。
こちらに向けられているわけでもないのに、初戦で見たアインドレイクのブレスを遥かに上回る脅威を感じていた。
「見てください。キッポン殿まで震えています……」
「ほ、ホントだ……」
キュティの言葉に、リーフが蒼白となる。
武舞台の中央で、緑の巨体が小刻みに震えていたからだ。
魔神王を目の前にしたときでさえ、キッポンが震えるところなど見たことがなかった。
まあ、実際のところは、
(おお! いよいよボスっぽいぞ! 今度こそフラグに違いない! さて、どうやって攻略しようかなあ)
ドラゴンスライム進化への期待に、ぷるぷると震えているだけだったのだが。




