第79話 「ぶちかましてやれっ、キュティ!」
「まったく、最初から結果が見えているとは言え、これは茶番が過ぎるぞ。おい、只人の女。これを見ろ」
アインドレイクの二つの口に、凄まじい魔力が凝集する。
ゴォォォオオオッ!
そして放たれた二本の光条。
試合場近くに漂っていた小山ほどの浮遊島に直撃し、跡形もなく消し飛ばした。
「試合が始まったら、これをお前に叩き込む。命が惜しければ、いますぐ棄権しろ」
(棄権したくても出来ないんですよ……!)
キュティのこめかみを冷たい汗がたらりと流れる。
アインドレイクが放ったブレスの威力の凄まじさに圧倒されたからだ。
全力で防御魔法を展開すれば、命だけはなんとか取り留めるだろうか……。
と、キュティは心配しているが、実際のところアインドレイクは手加減をするつもりである。殺してしまってはルール上敗北になるし、何よりドラゴンとしてのプライドが只人ごときに全力を出すことを許さない。
「大人気ねえぞー」
「そんなマジになんなよー」
「お祭りなんだからさー」
そんなアインドレイクの気持ちなど知らない観客席からは酔っ払ったドラゴンたちのブーイング。
黒白大戦は数少ない貴重な娯楽でもあるのだ。
速攻で試合を片付けようとするアインドレイクは、娯楽に飢えているドラゴンたちには陣営を問わず不評だった。
「ちっ、酔っぱらいのボケどもが。仕方がない。お前の攻撃を一発は受けてやる。それで力の差を思い知ったら降参しろ。いいな?」
アインドレイクが舌打ちとともに吐き捨てた。
【それでは第一試合、開始ッ!!】
ごうーんと銅鑼が鳴り、試合が始まる。
(一回攻撃できるチャンスがもらえたのは僥倖でした。見た目が派手で、なるべく威力が出ない術式を編みましょう)
元より自分ごときの魔術が通用するとは思っていないが、全力を振り絞った(ように見せかけた)一撃でもかすり傷さえ負わせられなかったとなれば、降伏しても咎められはしないだろう。
そう考えて、キュティが魔力を練り始めたときだった。
「キュティ! これを使えっ!」
「!?」
観客席からキッポンが何かを投げ込んだ。
音叉のような形をした二叉の槍の石突が、武舞台に突き立つ。
ドライヴァルの鱗で出来たそれに、キュティははっきり見覚えがあった。
「あの技をぶちかましてやれっ、キュティ!」
巨大なサムズアップを作るキッポン。
キュティはそれに、引きつった笑顔を返す。
(レールガンは手加減のしようがないじゃないですか……!?)
「おい、どうした。何かあるのならさっさとやれ。何を使おうがオレはかまわんぞ」
キュティの顔面を冷や汗が滝のように流れる。
しかし、いくら悩んだところで選択肢はない。
ここまでお膳立てをされてやらないわけにはいかないのだ。
「もう! どうとでもなりなさいっ!!」
絶叫とともに雷魔法が放たれる。
その行く先は槍の根本。
二叉の穂先が青く輝き、間に挟んだ弾丸をローレンツ力で加速。
どおおおおおおおおおおん!!
超音速の弾丸が、轟音とともに放たれた。
プラズマ化した金属の白煙が武舞台を覆い隠す。
「はっはっはっ。なかなかやるじゃねえか」
アインドレイクの声。
風。
白煙が吹かれ、その姿が顕になる。
「ひ、ひさびさにいいのをもらっちまったぜ……ぐふっ……」
腹。
深々とめり込んだ弾丸。
アインドレイクは身体をくの字に曲げ、前傾姿勢で崩れ落ちた。
【勝者、キューティリオン選手!】
「えっ、か、勝っちゃったんですか……?」
勝者を告げるアナウンスにキュティが動揺し、会場は静寂に包まれる。
そして、
「うおおおおおお! すげえええええええ!!」
「おいおい、竜殺しの人間なんてひさびさに見たぜ!!」
「よっしゃあ! 大穴ゲットだぜええええ!!」
割れんばかりの歓声が湧き上がった。
(ええええええ!? なんですかこの空気!?)
予想外の反応に、キュティは慌てて武舞台をあとにした。
てっきり罵声の嵐が飛んでくると覚悟していたのだ。
「……し、死んじゃいねえけどな……」
武舞台では、一人残されたアインドレイクがぴくぴくと痙攣していた。




