第76話 「というわけだからさ、背中に乗ってみてもいい?」
「なるほどのう。観光で浮遊大陸に。とんでもないやつらもおるものじゃのう」
これまでの経緯を聞いたパイロンは、面白そうに笑った。
神話の世から生きてきたが、そんな軽いノリでドラゴンに会いに来た者など一人としていなかったからだ。
「というわけだからさ、背中に乗ってみてもいい?」
「ダメじゃ」
しかし、キッポンが近づこうとするとびくっと後ずさる。
長年生きて様々なものを見てきただけに、常識外れのこの生き物が不気味なのである。言葉を飾らずに言うなら「キモい」のだ。人間で例えるなら巨大カタツムリが突然話しかけてきたようなものである。
だが、
(じいちゃんも警戒するなんて……本当に何なのこいつ……)
(おそらくは神代から生きるエルダードラゴン……それさえも恐れる存在とは……)
と、イムギとキュティは揃って内心で震えている。
ただし、リーフに関しては、
(あー、やっぱキモいものはキモいよね。あたしはだいぶ慣れてきちゃったけど)
と、唯一パイロンの気持ちを理解していたが、もちろん口には出さない。いくら慣れたと言っても、調子に乗ってキッポンを怒らせたらと思うと怖いのだ。
「ま、ともあれ観光ならこれで目的も済んだじゃろ。神託の勇者というわけでもないようじゃし、去ね去ね。儂らも忙しいんじゃ」
「ええー」
パイロンの塩対応にキッポンが唇を尖らせる。
せっかくここまで来たのだから、何かそれっぽいことをしたいのだ。だが、具体性は何もない。たしかに景色は素晴らしいが、それ以外に何があるわけでもないのだ。
言ってみれば、絶景だけが売りの秘境のようなものである。最初こそ感動するが、早々に時間を持て余して文明が恋しくなるタイプの観光地だ。
とはいえ、文句を言ってもやることがないのは変わりない。
仕方ないからお弁当を食べてから帰るか……とキッポンが諦めかけたときだった。
「なんだ、パイロン。訳のわからん連中を連れてきおって。今年も負けそうだから、助っ人でも連れてきたのか?」
またしても上空から声。
パイロンよりもさらに一回り大きい影が舞い降りる。
それは漆黒の鱗と九つの頭を持つドラゴンだった。
「ふん、クーロンか。何をバカなことを言っておる」
パイロンがむっとした様子で、クーロンと呼ばれた黒竜を睨む。
「バカなことがあるものか。この千年、貴様ら光の竜族は、我ら闇の竜に負け続けではないか。いよいよ考えあぐねて人間の如き劣等種に援軍を求めたのだろうよ。光の神の使い走りらしいではないか」
「ぎぎぎぎぎぎっ! 言わせておけばっ! この者らは援軍などではない!」
「ほう、援軍ではないと。では何だ? 貴様らの無様な負けっぷりでも見物に来たのか?」
「違うわっ! こやつらは……こやつらは、そう、ハンデじゃ! ハンデをつけてやるために連れてきたんじゃ!」
「ワハハハハ! 面白いことを言う。我らの勝負に、その劣等種どもを持ち出そうと言うのか」
「そのとおりじゃっ!」
九つの頭で嘲笑うクーロンに、パイロンが白い鱗を真っ赤にして怒鳴る。
意味のわからない展開に巻き込まれ、リーフとキュティはぽかんとしていたが、
(なんだかよくわからないけど、面白いことになってきたぞ。ドラゴン同士の対決……どう考えても重要イベントだな。ドラゴンスライム的なものに進化しちゃったりして)
ただひとり、キッポンだけは妄想に胸を高鳴らせているのだった。




