第74話 「あっ、普段は人化しているとかそういう」
「なるほど。ドラゴンに会ってみたくなって、ちょっと気球を作って飛んできてみましたー、と。……いや、なるほどじゃないんだけど。遠距離恋愛の恋人に会いに行くよりもずっと手軽な感じで来られてもちょっとアレなんだけど」
イムギに案内され、一行は応接室らしき場所に通されていた。
神殿は平屋づくりで天井が恐ろしいほど高かったが、その一角に人間サイズのテーブルセットが用意されていたのだ。
「あっ、そうだ。そういえばドラゴンがいないけど、どこに行ったら会えるの?」
イムギの半ば責めるような目つきにも怯まず、空気を読まない質問をするのはもちろんキッポンだ。
「ドラゴンなら、目の前にいるけど」
「あっ、普段は人化しているとかそういう」
「えっ!?」
イムギの目が丸くなる。
これからドラゴンの姿に戻って度肝を抜いてやろうと思っていたのに、あっさり正体を見破られたからだ。
(ボクの変身を見破るなんてどういうこと? 魔術を使った形跡は……いや、それどころか魔力の気配すら一切感じない。竜族のボクですら見抜けない高度な隠蔽魔術を行使してる? しゃべるスライムなんて妙だと思ってたけど、只者じゃない……)
イムギの警戒心が跳ね上がる。
キッポンたちは預かり知らぬことだが、浮遊大陸はいつか闇の神々が復活したときに備えた、光の神々の遺産を封じた地である。その力は言うまでもなく強力無比で、悪しき者の手に渡れば地上など簡単に支配してしまえるだろう。
それを防ぐため、光の神々は大地を高空に浮遊させ、ドラゴンの一族を守り人に置いたのだ。
(観光で来たなんて言うから拍子抜けしちゃったけど、冷静に考えたら絶対に嘘だよね……)
正体こそわからないが、油断をしてよい相手ではない。
とは言うものの、
(でも、神託こそなかったけど、ここにたどり着けたってことは資格があるってことなのかも? あー、ボクだけじゃ判断できないよ。どうしてこんなときに爺ちゃんがいないんだろ……)
問答無用で追い返すというわけにもいかない。
遺産はその資格ありと見込んだ者に受け継ぐために存在するのだ。
イムギはこんな具合にうんうんと唸っているわけだが、そもそもキッポンはイムギの正体を見抜いたわけではない。単にラノベのあるある展開を当てはめただけである。一見可愛らしい女の子が実はドラゴンだったとか、両手の指では収まらないほど見てきたのだ。
そんなわけで、キッポンとしては、
「早く変身してくれないかなあ」
というのが本心であり、うっかり口に出して呟いてもしまう。
それを聞いたイムギは、
(ボ、ボクは変身させてどうするつもりなの!? ドラゴンなんかぜんぜん怖くないぞってこと!?)
と、ますます警戒する。
なんなら、ちょっと怖くなってきてたりもする。
ドラゴンと言えば現世最強の種族だ。
それを微塵も恐れず、あまつさえ変身を促すこいつは何者なのか。
「そ、そうだ! ドラゴンに会いたいならさ、みんなのところに連れてくよ」
「いいの? やったあ!」
「えっ!?」
イムギがあえて「みんな」と言ったのは、大勢のドラゴンに待ち構えられているとなれば、いくらなんでも怯むだろうと思ったからだ。しかし、思惑は外れ、謎のスライムはぷるぷると身体を弾ませている。
(ほ、本当に何なのこいつ……。じいちゃん助けて……)
イムギは内心で涙目になりながら、椅子から立ち上がった。




