第73話 「ひいいっ!? 食べ、食べないでっ!?」
神殿の玄関口で、白いトーガをまとった子供が尻もちをついていた。
歳は十代前半くらい。中性的で整った顔立ちをしている。空色の髪に銀の髪留め。どうやら女の子だ。そして、キッポンをさす指が小刻みに震えていた。
(天空人的なアレかな? なんか怖がってるし、ファースト村人に悪印象を与えるのはよくないなあ。よし、ここはあの手でいこう!)
キッポンは改めて少女に向き直り、
「ぷるぷる。ぼくはわるいスライムじゃないよ」
「ひいいいいいいっ!?」
渾身の挨拶をしたところ、少女は尻もちをついたままずりずりと高速で下がっていった。それもそのはず。いまのキッポンは膨れ上がった気嚢から触手が伸びる巨大怪生物にほかならない。
しかし、そんなメタ認知ができないキッポンは、無害アピールが足りなかったのかと触手で地面を掴んで迫りつつ、巨体をぷるぷると震わせながら「ぼくはわるいスライムじゃないよ」としつこく繰り返す。
「ひいいっ!? 食べ、食べないでっ!?」
「ちょ、ちょっとキッポン! めっちゃ怖がられてるよ!」
慌てたリーフが割って入ると、少女はリーフの足にすがりついた。
「ええー、なんで怖がられるのさ。わるいスライムじゃないのに」
「うーんと、いまはスライムに見えないからじゃないかな……」
スライムだろうが怖いのだが、もはやそのあたりの感覚はリーフも麻痺しかかっている。出会った頃のリーフが巨大タコキッポンに遭遇していたら、最低でも三日三晩は悪夢にうなされたことだろう。
「あっ、そういうことか。失敬失敬」
キッポンはぷしゅーと水素を抜いて、いつもの半球形態に戻る。帰りはパラシュートなりパラグライダーなりの要領で降りるつもりなので、もう水素は必要ないのだ。
「き、君たちは誰……?」
巨大タコが縮んだことでいくらか落ち着きを取り戻した少女が、恐る恐る尋ねる。
「あたしはリーフ。エルフの狩人よ」
「小生はキューティリオンと申します。コロッセ王国の宮廷魔導師です」
「俺はキッポン! わるいスライムじゃないよ! 君は?」
「は、はあ……」
少女は胡散臭げに三人を眺めたのち、
「ボクはイムギ。このリューグ神殿の巫女をしてるよ。君たちは何をしに来たの? 神託もないし、選ばれし勇者って雰囲気じゃないけど……」
「何をしに来たって聞かれると……」
三人は顔を見合わせて、
「「「観光?」」」
「なんで半疑問形なの? っていうか、思いつきの日帰り旅行みたいなノリで来れる場所じゃないよね、ここ?」
イムギにめちゃくちゃ真顔で問い詰められ、返す言葉もない一行だった。




