第70話 キュティ、余計な一言を悔やむ
「浮遊大陸!?」
キュティの思惑通り、案の定キッポンが食いついた。
目をキラキラさせて、テーブルに身を乗り出している。目はないが。
「キッポン殿はまだ見たことがありませんでしたか。そろそろこのあたりに流れてくる季節なのですが」
「うん、実物を見たことはないなあ。どのパターンなのか気になるな。自然石が浮いている感じか、お城が浮いてる感じか、それとも歯車と蒸気機関のスチームパンク風? あっ、言わなくていいよ。見るまでのお楽しみにしたいから」
(すちーむぱんく……? 未知の魔術でしょうか?)
もちろんキッポンはラノベやらアニメやらの知識から思いついたことを適当に話しているだけだが、キュティはいちいち真剣に受け止める。
(キッポン殿が来た世界にも浮遊大陸は存在した。けれどもキッポン殿はそれを見たことがない。地下に封印されていた? 異界でも危険な存在だったとするなら、この世界には追放されてきたのかもしれない……)
そんな風に、悪い方に悪い方に想像を巡らせていく。
「浮遊大陸かあ。言われてみれば、周りにでっかい鳥みたいのが飛んでることがあるよね。あれってドラゴンだったんだ」
「えっ、リーフさんも知らなかったんですか?」
「うーん、矢が届かないものは気にしてもしょうがないかなって」
実際にはエルフ村でも浮遊大陸にまつわる昔話などは語られているのだが、そういうものには興味がないのがリーフである。
「でもさ、浮遊大陸にドラゴンがいるってわかっても、見に行けるものじゃないじゃん」
「いえいえ、叡智の塔では浮遊大陸に至る飛行魔術の研究をしている方たちもいるんですよ」
「へえー、雲の上まで飛んでいけるなんてすごいね」
リーフが素直に感心するが、じつは完成した技術ではない。
それどころか、研究は暗礁に乗り上げており、完成の目処がまるで立ってないのだ。このままキッポンを叡智の塔に連れていき、時間稼ぎをする腹である。学者が集まる叡智の塔であれば、キッポンの正体を探るきっかけが得られるのではないかという思惑もあった。
「空の旅かあ。いいねえ、行ってみたいねえ」
「空から弓が射てたらなんでも狩り放題だねえ」
よしよし、キッポンもリーフも乗り気のようだ。
このまま叡智の塔への旅を提案しよう。
そう、キュティが思ったときだった。
ボンッ
「ひっ!?」
キュティは思わず悲鳴を上げて仰け反った。
キッポンが突然膨張し、巨大な球体となったからだ。
「こんな感じで飛んでいけるかな? 名付けて風船モード」
「ふ、風船ですか……。気球で飛んでいこうというアプローチの研究は確かにありますが……」
熱気球の原理はこの世界でも発明されており、用途は限られるが実用化もされている。
しかし、浮遊大陸のある超高空までは届かない。
それに、単なる風船では浮力が得られない。
まさかキッポンが飛行手段が持っていたらどうしようかと恐れていたが、どうやら杞憂に終わりそうだ。
と、キュティはほっとしたのだが、
「あとは浮力が確保できればオッケーだね。キュティ、ちょっと手伝ってもらってもいい?」
「えっ? あっ、は、はい」
どうやら杞憂が実現してしまうらしい。
(ひょっとして、小生は余計なことを言ってしまったのでは……)
自らの失言に気が付き、激しい後悔に襲われるキュティだった。




